線路の凪

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「春菜ちゃん。大丈夫?」 何日目の投稿だったか、ある日、一つのダイレクトメッセージに目が止まった。 私はあわてて、身体中に血が巡るおもいで、視界をその文字列に釘付けた。 ストーカーに悩む私に唯一、声を掛けてきたのは、昔、授業で付き合いがあった、翔くんだけだった。 学科も違うし、ほんと、メッセージが来るまで、その存在すら忘れていたようなひとだ。 私は彼のアカウントを見て、徐々にその容姿を思い出した。 もやもや、白い雲の中を掻き分けて、なんとか、必死で、思い起こす。 なんだっけ、社会学科の翔くんと、英語学科の私たちが、街に出て、何かインタビューをした気がする。ほんと、一年生の、大学生になりたてのときだ。 そのくらい前、知り合って、すれ違えばあいさつをするようになって、SNSが見つかれば互いにフォローする仲になったんだっけ。 「大丈夫じゃ、ないよ」 私はとびきりのステーキを前にナイフとフォークを握る気持ちで、翔くんに返事をした。 「心配だよ」 翔くんも、どこか弾むように、返事をくれた。
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