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「遅刻しました。篠原です。入ります!」  会社の玄関は開いていた。三和土の上でローファーを脱ぐ。今日は社長が講演旅行に出発する日、六限目の終わりと同時に飛び出せれば、お見送りに間に合っていた筈なのに。 「舞が参上しましたよー。誰かいませんか」  家の奥からは何の返事もない。玄関から奥へと延びる廊下は、暗くて洞窟のようだ。  あたしは台所を覗いた。テーブルの上の半紙に、筆で「篠原くんへ 行ってくる」と大書されている。あたしは大笑いした。  笑い終わったあたしは庭におりて、水道につながったホースを探した。ホースの先が木々の間に伸びている。その先端を見ると……専務が草木の陰に倒れていた。 「専務、どうしたんですか?」  専務に駆け寄る。冷や汗を流して、細かく震えている。意識がない。あたしは専務の体を揺すって叫んだ。 「専務、専務、しっかりして下さい! ‥‥誰か助けて! 社長、助けて!」
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