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「きれいごと言っても、ぼくも専務の人生を搾取しているのかな……会社員という地位を用意して、あいつに生き続けて欲しいと願ったけれど……結局、あいつはぼくの仕事を助けている。利用しているだけなんじゃないか」
「それは違います」
専務は社長を支えるのが嫌だったんだろうか。プライドを持っていたんじゃないか。
「あいつ自身の夢や望みが叶わないのなら、死んだ方が自由で幸せなのかもしれない。それを止める言葉は、もうない。でも!」
社長は叫んでいた。
「専務がいなくなったら、ぼくは広く古い家に一人ぼっちになってしまう。一人で、あの家の掃除なんてできやしない。あいつの料理が好きだったのに、それも食べられない……一人で、どうやって生きていけばいい!」
広い世界の片隅で、二人きりで何とか生き抜いてきた兄妹のイメージが、焦点を結ぶ。
専務の強さは、自分が支えなければ生きていけない社長の存在があったから。それに気づいていた社長は、専務に頼った。専務がもっと強く生き続けてくれるように。そうやって二人で生きてきた、その片方を奪われたら、この深夜の病院みたいに冷たくて残酷な世界で、どう生きていけばいいのだろう……
「どうして泣いているんだね」
社長の優しい声。ゴミ捨て場に倒れていた、あたしを抱え上げてくれた時と同じ声。
「だって、だって……」
子供みたいにただ泣きじゃくることしかできない。社長に何もしてあげられない。
ーー今はただ、きちんと後片付けをしていきたいわね。
専務の夢。専務は自分の亡き後、社長がこれほどの孤独を抱えることをわかっていたんじゃないか。あの「社長の子どもを産んでくれない」発言も、社長を一人きりにしないためかも。
人は二人なら生きられる。たとえ愛じゃなかったとしても。
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