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「ここは会社だ。会社にずっといたいなら、入社試験を受けるのが当然だろう」 「ここ、何の会社なんですか?」 「ぼくは作家、物書きをしている」 「作家って、原稿用紙に字を書く人?」  色々イメージが合わない。社長は笑った。 「意外と古いことを言うね。パソコンに打ちこんで、メールで入稿しているから、ウチには原稿用紙なんてものは一枚もないよ」 「どうして作家なのに、社長なの?」 「作家というと、世間では『先生』と呼ばれるだろう? それが嫌なんだ。ぼくは人に何かを教えるほど偉くない。呼ばれるなら『社長』の方がましだ。この会社、名上プロダクションは、ぼくが社長で、妹の和子が専務だ。原稿料を収入として社員に給料を支払う。その方が税金も安くなる」  そうか、専務は社長の妹なんだ。 「入社できたら、あたし給料もらえますか?」 「そういうことになるね」  家族なのに家族じゃない。家族なのに会社。何だか面白そうな気がしてきた。 「それじゃ入社試験どうぞ! カモン!」  社長は、のけぞって大笑いした。 「これこれ、入社試験なんだから、背筋を伸ばして、ちゃんと座って、挨拶して」  あたし不真面目すぎたみたい。  まず名前を聞かれた。社長は本当に面接する人みたい。柔らかくて、堂々としている。 「ご自身の長所、強みを教えて下さい」  え、あたしに長所なんてあったっけ? あたし頭はよくないし、人に迷惑ばかりかけているし……長所なんて、わかんない。 「では、ご家族について教えて下さい」  あ、これなら簡単。答えられる。 「ママと弟とお父さんがいるんだけど、お父さんは本当の父親じゃなくて……」  それで? と社長がうまく聴くので、言葉が止まらなくなって、全部喋ってしまった。 「最後の質問です。ご自宅の電話番号は?」  これって本当に入社試験なの? 芽生える疑い。家に連絡する気じゃない? どうしました、と回答を促す社長の髪に寝ぐせを見つけた。ちゃんとしてないよ。この人マヌケすぎる。あたしは電話番号を教えた。 「面接試験は終わりです」 「どうだった? あたし入社できる?」 「まあ、普通の会社なら落第だろうね。それに君は一度、家に帰った方がいい」  そんなの嫌だ。やっぱり電話番号を言うんじゃなかった。 「家族と別れてしまうと、君自身がいつか後悔するよ。世の中には取り返しのつかないことってあるんだ。で結果だが……入社を認めます。自宅から通っておいで」  本当に? あたし、ここに居られるんだ。 「それから……自分にいいところがない、なんて思うな。君にはいいところが沢山ある」
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