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 その夜、専務と社長は、遅くまで話をしていたようだった。翌日、専務が「いつも面倒なことはわたしにさせるんだから」とブツブツ言いながら、あたしの家に電話をかけると、ママが飛んできた。応接間で専務と長話をして、ママは頭を深々と下げて帰っていった。  その日の晩ご飯の時、専務は言った。 「篠原さん、あなたは明日お家に帰りなさい。お母さまが迎えに来るって、電話があったわ」  専務はふと黙った。 「あの人の立場もわからないではないけれど……どうして、こんないい子を……」  専務は席を立って、まだ食べているあたしを背中から抱きしめた。 「篠原さん、あなたは今日からウチの正社員だからね。いつでも来ていいのよ」  専務って暖かい。見た目と違って、優しい人なんだ。あたしはこみあげるものを堪えながら、「はい」と答えるのがやっとだった。
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