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あたし、篠原舞の名上プロダクション社員としての新生活が始まった。
あたしは、高校の授業が終わると一目散に名上家へ行く。専務の仕事を手伝う。社長や専務と晩ご飯を食べてから、家に帰るのが日課になった。月末には給料が出た。時給千円。週末は朝から晩までずっと入り浸っている。
他の場所では相変わらず、あたしは一人だった。家族とほとんど顔を合わせない。教室でも、誰一人、あたしに話しかけない。あたしが男の部屋にいたことが、デマも混ざって、取り囲む制服の壁の向こうで、低い声で流れているのが、手に取るようにわかった。
以前はそんな時には、すぐカッとしたけど、今は他人事のように感じる。はん、それが何? あんたたち、学校っていう箱の中でチマチマ言ってなよ。あたしには関係ない。
社長、名上直澄は、結構売れている作家らしい。社長の本が平積みになっているのを、本屋で見た。講演のオファーも来ているけれどお断りしているの、と専務は言った。
「あのだらしない顔を見たら、人気がガタ落ちですもんね」
と言うと、専務は静かに笑って首を振った。
「社長は、作家になるまでに人に迷惑をかけたの。だから有名人になるのが嫌なの」
専務は、スーパーの特売をチェックして、電気代水道代も詰めて節約している。もっとお金が入ってくれば、そんな苦労も減るのに。
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