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週末の夜、あたしは夕食を、社長や専務と食べていた。社長がぽつんと言った。
「来月、山口で講演の仕事が入ったんで、多分二泊三日ぐらいの旅行になると思う」
「あら珍しい。そういう仕事は嫌いなんじゃ」
「飯島の奴が、内野先生との対談とセットで企画してきたんだ。断れんよ」
苦々し気な社長を見て、専務は笑った。
「ねえ、内野先生って?」
「先輩の作家さんなの。きれいな人らしいし」
へえー、なるほど。とあたしもニヤニヤすると、社長はますます不機嫌になり、
「へえじゃない! 単にファンなだけだ」
ニヤニヤが止まらない。社長は話を変えた。
「そんなことより、二泊で家を空けるが、大(・)丈(・)夫(・)なのか?」
「大丈夫よ」と専務が答えた。
「篠原さんも、任せて大丈夫よね?」
「はい、任せて!」
頼られたのが嬉しくて、元気いっぱい返事をする。専務はあたしをみつめて言った。
「篠原さん、社長の子供を産んでくれない?」
「いやです! 絶対に」
あたしは反射的に叫んでいた。子供ってことは、この冴えないおっさんとエッチを……
「無人島で二人きりになっても嫌です!」
と力いっぱい否定したところで、社長の存在に気づいた。社長は苦笑いしている。専務に目をやる。冗談よ、と笑い飛ばしてくれないだろうか。しかし専務はじっとあたしを見つめていた。沈黙に耐えきれずに言った。
「……それは業務として、でしょうか?」
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