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『貴方があの夜、わたくしにしたことを、わたくしは一生忘れることはないでしょう。いったい貴方はどこにいるのですか。このまま、貴方がわたくしを見捨てるというのなら、わたくしは孤独のまま、一人で死を迎えるでしょう。死がわたくしを迎えに来るまで、あなたのことをお恨みいたします』
香織がその手紙を見つけたのは、父方の祖母の遺品整理を手伝っていた時のことだ。私的なものがしまってあった鏡台周りの整理を、香織は母に仰せつかった。娘がいなかった祖母の私品を、息子たちや親戚たちに触られるよりは、孫娘である香織に整理してもらった方が、おばあちゃんも喜ぶだろうからというのが、母の言い分だった。
香織もなんとなく納得して、整理を始めた。好奇心もあったかもしれない。
秘密の恋文とかが出てきたらどうしよう?
それぐらいの野次馬的な、わくわくはあった。
しかし見つけたものは、恋文にしては、剣呑なものだった。手紙は鏡台の横にある文机の奥で、薄い木箱の中に入れられていた。手紙や、広告、書類の奥で、そっと木箱に守られてしまわれていたように感じた。
「なにこれ?」
香織は思わず呟いたが、誰かがこちらに歩いてくる音を聞きつけると、慌てて手紙をジーンズのポケットに隠した。なんとなく、見つかってはいけないものに思えたのだ。
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