れなとお別れ

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れなとお別れ

寂しさを感じながら家に帰り、勉強しようと部屋に戻ろうとしたところで妹に呼び止められた。 「さっき女の人が来てたよ」 「え? 誰?」 「分かんない。昨日も来てたけど、いないって言ったら帰った」 俺は急いで玄関を出てポストを開けた。 そこには小さな包み紙と可愛らしい封筒が入っていた。 『リュウくん。勉強頑張っているのに会いに来てごめんね。クリスマスだからどうしてもプレゼントを渡したくなって来ちゃった。試験まであとちょっと。お互い夢に向かってがんばろー! ファイト! れなより』 短い手紙だった。包みを開けると手編みの手袋が入っていた。 ――来年のクリスマスのプレゼントは何がいい? 今年はマフラーだったから来年は手袋なんてどうかな? 去年のクリスマス。 彼女の屈託ない笑顔が浮かんで、涙が溢れ出た。 俺がバカみたいに他の女の子といちゃついていた時に、彼女はずっと耐えて頑張って、それでも俺だけのことをずっと想い続けてくれていたのだ。 何をすればいいのかも分からないまま、掛ける言葉さえ考えずに、とにかくがむしゃらに、手袋と手紙を握り締めて駅に向かって全力で走った。 「・・・ごめん! ・・・ごめん!」 全力疾走と罪の意識で胸が張り裂けてしまいそうだった。 それでも走った。 何度もこけそうになりながら、絶対に立ち止まってはいけない気がした。 ちゃんと彼女に会って、ちゃんと向き合い、話せるチャンスは二度とない気がした。 けれど、駅のホームに彼女はいなかった。 電車は行ったばかりで、その電車に乗っていたのかも分からないけど、でもそれが自分の選択したことで、それが自分が起こした最悪の結末だということが身にしみた。 その夜、俺は久しぶりに彼女の家に電話を掛けた。 昔みたいに、暗黙の偽名を親に伝えて繋いでもらう。 彼女の親に嫌われていた俺は、素直に名前を伝えても繋いでもらえないため、いつも彼女のクラスメイトふりをして掛けていた。 「・・・もしもし」 受話器の向こうから、か細い声が伺うように聞こえてくる。 「もしもし・・・」 お互い何と切り出していいのか分からなくて、しばらく沈黙が続く。 それでもきちんとケジメをつけなければならないと思った。 利己的な考えかもしれないけど、これ以上、彼女を苦しめてはいけないと思った。 「俺・・・、好きな人ができた」 「・・・うん。多分、そうだと思ってた」 少し掠れた元気のない声はきっと泣いていたのだと思う。もう昔のような会話はできなくなっていた。 「色々、伝えたいことはあるけど、本当にれなのことが好きだった。ずっと、一緒にいると思ってた。でもそれ以上に好きな人ができたんだ。本当に・・・」 ごめんと言いたかった、けれど言えなかった。 ごめんだけでは済まされない、本当に酷いことをしてしまっていて、生涯消えない傷をつけてしまっていて、軽々しく謝ってはいけないと思った。 最低の男のまま、恨まれて、憎まれて、刺されたって良い。 それでれなの気が少しでも晴れるなら本望だった。 それ以上に彼女の心を傷つけてしまったのだから。 受話器の向こうでれなが泣いていた。 もう優しく声を掛ける権利は俺にはない。 「勉強頑張ってほしい。俺がいなくても。絶対に。それだけは本気で応援しているから。だから・・・・・・別れよう」 そう言って一方的に電話を切った。 抑えていた涙が堰を切ったように溢れた。 2年間の思い出が走馬灯のように蘇って、楽しかったこと、辛かったこと、二人で過ごした日々、学校、公園、ゲームセンター、全部が涙と一緒にポロポロとこぼれていくのが分かった。 「ありがとう・・・、ごめん・・・れな。本当にごめん・・・・」 部屋の中、一人で声を押し殺して泣いた。 れなこの顔が浮かんだが、連絡できなかった。 少しだけ、れなこが感じていた孤独を分かった気がした。
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