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彼女と受験勉強
「大学に行くことにした」
俺がそう告げると、彼女は複雑な表情を浮かべ大粒の涙を零した。
「うん・・・」
悲しみと安堵が絶妙な割合で入り混じった表情。
そんな彼女の心情を正しく読み取れるほど大人ではなかったけれど、とても愛おしく感じ、俺は華奢な肩を引き寄せ、一緒に泣いた。
大学に行くことを決心したのは高校3年の秋。目指す大学は彼女と同じ某国立大と決めていた。
理由は彼女とずっと一緒にいたかったこと。
国立大に入れば向こうに住んでも家賃だけは親から援助してもらえるため、大人たちに邪魔されることなく、ずっと二人でいられると幼稚な考えに至ったからだ。
遅いスタートだったので浪人覚悟だった。
父親には既に一年までは浪人させてもらうことに了承してもらっていたが、宣言通りの国立大に入ることが条件だった。
彼女が俺の一つ下の学年だったというのも幸いした。
ゴールまでの期限が同じになるのだ。
今まで別の道を進んでいても上手くいっていたのだから、一緒に走れるならば辛い道だって完走できる。
スタートラインに立ったばかりの俺はそんな甘い考えを持っていた。
それからサボりがちだった授業にも毎日欠かさずに出席した。
頭の中がまだ高校一年生のままだった俺は、授業中は教科書とノートを開き、教師の話は聞かずにひたすら自習をして周りに追いつくことだけに専念した。
放課後は彼女と図書室で待ち合わせし一緒に勉強した。
茜さす図書室の窓際に並んで座り、勉強に励む二人。
帰りには必ず階段裏の倉庫でこっそり抱き合ってキスをしてから家路についた。
まるで学園ドラマの主人公にでもなった気がして少しだけ浮かれていた。
正直、俺が勉強することについて、友達含めて周りから応援されることは少なかった。
今まで散々馬鹿にしていた教師から揶揄されることもあれば、同級生たちからも、今までサボっていた奴がちょっと勉強しただけで同じラインにたてると思うなよ的な言葉を掛けるものもいた。
もちろん、かつての一緒に音楽に励んでいた仲間たちも、結局ドロップアウトして手のひら返したように勉強している俺を見て後ろ指を指していたことだろう。
それでも周りの目など気にせず、彼女との未来だけを考えて必死に頑張った。
その甲斐があって、11月のセンター模試では偏差値30だった数学が、翌月12月のファイナル模試では偏差値60にまで上がった。
自分的には快挙だった。
もちろん彼女もすごい!と手放しで喜んでくれた。
その頃には勉強科目を私大センター受験の3科目に絞っていた。
現役の時点である程度良い大学に受かることで、周りから浪人すれば受かりそうと思ってもらいたかった。
他の科目はさて置き、勉強していた3科目は順調に分かるようになってきて、センター試験を受けるときには何とか中の下程度の私大合格ラインまで得点が上がっていた。
5教科必要な国立大はセンター試験で足切りされたが、何とかぎりぎり、一年浪人しても良いと親に思って貰えるだけの格好をつけることはできた。
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