浪人生と依存性

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浪人生と依存性

高校の授業がなくなるとすぐにバイトを再開した。 貯めていた貯金はとうに底を突いていて、彼女と連絡を取るために維持しなければならない携帯代も滞納している有様だったからだ。 それに彼女とはこれから学校では会えなくなるので、彼女と会うだけでも金が掛かる。記念日、誕生日、クリスマスと、この先1年分の出費分を今のうちに貯金しておこうと思っていた。 浪人までして更に小遣いを渡してくれるほど、俺の親は甘くはなかったのだ。 週6日、派遣のアルバイトをして金を稼ぎ、休みの日は彼女と会いデートをした。 当初バイト期間は4月になるまでと決めていたが、思った以上に出費が多く、4月になって予備校が始まってもバイトを続けていた。 予備校は毎日通うフルのコースではなく、学科を選択して週に何度か通う方法にし、あとは自習で補填をすることにした。 これは親に甘え切りたくないというせめてもの自分プライドだった。 日中はバイトし、夜は現役生と一緒に予備校の授業を受け、休みの日は彼女とデート。 今まで毎日会っていたのが週に一度しか会えなくなり、彼女からは頻繁に連絡が来るようになっていた。 朝起きてから夜寝るまで、ほぼずっとメールか電話で繋がっていて、携帯の通話料も比例してどんどんと増えていった。 初めは「勉強がんばろー!」や「今何の教科やってる?」など励ますようなやり取りが多かったが、次第に「寂しい」「会いたいよー」「声が聞きたい・・・」といった依存する内容に変わっていき、電話する頻度も上がっていた。 当時は携帯同士の通話料が非常に高く、月々の支払が携帯代だけで5~6万円というのが当たり前になっていた。 そんな状態が続いていたので6月になっても金が貯まることはなく、派遣のバイトを辞めて、より時給の良いガテン系のバイトに変え、早朝から深夜まで働くようになった。 予備校も休みがちになり、彼女と会ってもケンカすることが増え、互いの心が離れていくので余計に電話で話す時間が増え、通話料がかさみ、バイトを増やす。 不の循環が始まり、いつの間にか勉強する気力もなくなっていて、予備校にも行かなくなっていた。 「勉強している?」と彼女からメールが来ると苛立ち、「人の心配する前に自分が頑張れよ」と心無い返信をすることもあった。 彼女の心を傷つけ、自分も傷つき、けれど誰にも弱音を吐けず。完全に歯車が狂ってしまっていた。 次第に彼女も勉強に手がつかなくなり、一番大事な夏休み前に成績が下がってしまっていた。 教師にも親にも注意されたらしい。 俺は更に状況が悪く、そもそも模試すら受けていないような状態だった。
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