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バラ男と天使
池袋への移動中、何度かメッセージをやり取りして、西武横のポスト前で待ち合わせすることにした。
待ち合わせ場所に着き、辺りにまだそれらしい人がいないことを確認してから一息つき、れなこさんにメッセージを送る。
『着いたよ。胸に赤いバラを刺してるイケメンが俺だから見つけたら声かけてね』
すぐに返信がある。
『了解。イケメンにバラね(笑)すぐいくー』
どんな人が来るのかと急に不安になった。
風俗で働いているくらいだからそれなりの年齢で、もしかしたら結構ケバいかもしれない。
かわいいとかブスとか外見はどうでもいいけれど、話すのが気まずくなる感じの人だったら正直辛い。
そんなことを考えながら待つ時間は異常に長く感じられた。
実際には5分くらいだったのだろうけど、1時間は待たされている気分だった。
女の人が近づいて来る度にハッとして目で追い、通り過ぎる度にホッとする。そんな無駄な作業を繰り返しては疲れてうんざりし始めたときだった。
「リュウくん?」
思ったよりずっと若くて、ずっとキレイな声で呼ばれた。
ドキッとして顔を上げて更にドキっとした。
通り過ぎていったどの女の人よりもキレイな、薄化粧をした女の人が、不安そうな目で俺のことを見ていた。
会ってしまったことに少し後悔した。
多分俺より少し年上なのだろう。
服装は花柄の膝丈スカートにブーツ、カットソーにジャケットという落ち着いた装いで、前髪をセンターで分けていて、ウェーブの掛かった栗色の長い髪をしている。
偏見なのかもしれないけれど、少なくとも自分が思っていた風俗嬢のイメージとは正反対で、シャンプーのCMにでも出てきそうな清楚系の美人だった。
違う意味で話し辛かった。
「れなこ・・・さん?」
緊張と戸惑いで声が掠れた。
途端に目の前の女の人から不安の表情が消え、笑顔が浮かぶ。
目尻を下げ、口角が上がる。
「よかったー。違かったらどうしようかと思った。赤いバラ刺してないし(笑)」
こんな上手に笑える人っているのだなと感心した。
天使の笑顔って比喩が一番しっくりくる気がした。
その笑顔で不思議と俺の中の緊張も消えていた。
「あ、ごめん。さっきキレイな女の人がいたから上げちゃった」
「あっそ・・・(笑)じゃあどこいく?」
普段ネット上で会話していたのと同じように、他愛もないやり取りをしながら、俺おすすめの店に入った。
前にライブの打ち上げとかで何度か連れていって貰った店で、小洒落ているけど安くて美味いダイニングバーだ。
第一印象は色んな意味で住む世界が違う人なのかもと思ったけど、普段やり取りしていたせいか、そんなに遠くないような気がした。
「やっす! これならいっぱい飲めるじゃん」
「今日は俺の奢りだからじゃんじゃん飲んで」
「金ないくせに(笑)」
言葉遣いはメッセージのやり取りの時と同じで男っぽいのに、声と喋り方はおっとりとしていた。
好きな声だった。
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