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生き別れと意気投合
どちらかといえば俺は人見知りで、れなこさんもそうだと聞いていたけど、二人の間には初めから垣根がなかった。
言いたいことが言えて、思った答えが返ってくる。
幼馴染とすごい久しぶりに会って飲むとこういう感じなのかなって思う。
「ほんと、オヤジが待ってたらどうしようかと思ったけど、リュウがリュウでよかったよー」
「俺が俺ってなんだよ(笑)」
「想像通りイケメンでよかったってこと」
「イケメンか?(笑)こっちは想像と全然違ってびっくりしたよ」
「どんな想像よ(笑)」
「ケバいオバさん」
「最悪(爆笑)」
二人が意気投合するのにそんなに時間は掛からなかった。
それからお互い色々な話をした。
何が好きで、何に感動したとか、どんな漫画を読んでてとか。
M君にフラれた気晴らし会のはずが、気が付くとお互いが思い描く相手の空白を埋める作業に夢中になっていて、話題が尽きることはなく、あっという間に時間が過ぎていった。
れなこさんの話を聞いている中で驚いたことがいくつかあった。
一つは年齢が同じだったこと。
見た目と言動が落ち着いているせいか、会ってからも年上だと思っていたのに、実は高校を卒業したばかりで同じ学年だということが発覚した。
二つ目は、住んでいるところが俺が通っていた高校のすぐ近くだったということ。
日本全国から集まってきているネット上の、たまたま一番仲良くなった相手が、まさかそんなに近くに住んでいたことに奇跡的なものを感じた。
親しい仲ではなかったけど共通の知り合いもいた。
そして、一番驚いたのは、びっくりするくらい価値観が近かったこと。
これは本人同士にしか分からないことなのかもしれないけれど、お互いに生き別れの双子か? と疑いたくなるほど考え方が似ていて、ついでに酒を飲むペースもおかわりするタイミングも、トイレにいくタイミングまで、全く意識することなく一緒だった。
小さい頃誰もが一度は思う、別のところにいる親ってものに偶然会ってしまったような不思議な感じ。
「れなこが男だったらな」
「あたしもそう思う。リュウとは親友になれたかもね」
とっくに終電を逃し始発を待ちながら飲みつつそんな話をした。
その時には既に他人ではなくなっていた。
離れていたのに繋がっている。
何か自分には欠けているのではないかという違和感を埋めてくれる相手。
考えることなく、意識することなく、合わせることなくすっと腑に落ちる存在。
恋人とは別の、定義のない、お互いにとって大切な何かという曖昧な存在。
音楽やバイトを通してそれまでに色々な人と出会ってきたが、後にも先にももう二度とこんな相手と出会うことはないという確信染みたものがあった。
「すみません。そろそろ閉店ですので」
朝5時、始発が始まる少し手前で二人は街に放り出された。
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