優等生と不良品

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優等生と不良品

高校生の頃の俺は、一つのことに熱中すると他のことが疎かになってしまう性格だった。 音楽が好きでベースを始め、いくつものバンドを掛け持ちして、月に何本もライブに出演し、本気でプロになるためレッスンに通う。 そのためには金が必要で、毎日バイトと練習の日々。 しょっちゅう音楽仲間と朝まで飲んで語り合い、ろくに家にも帰らず、学校も朝から行くことがほとんどなくサボってばかりだった。 通っていた高校は自分で言うのもあれだけど、それなりの進学校だったと思う。 頭の良い奴や、親が医者とか金待ちが一杯いて、勉強についていけない奴は無情にも切り捨てられ辞めていく。 俺も毎年ギリギリ何教科も追試を受けて、教師にお別科を使って温情を貰い、何とか進級させてもらっているような状態だった。 その時付き合っていた彼女とも、バンドがきっかけで出会った。 といっても彼女は優等生で、とてもバンドをやるような子ではない。 友達が音楽に興味があり、その付き添いでたまたま文化祭のステージを観に来たのが切っ掛けだった。 俺の方から声をかけた。 一目惚れみたいな感じ。 その時彼女はまだ一年生で、俺は二年生。 色白で小さくて華奢で、誰もが守りたくなるタイプの女の子。 趣味はピアノ。 特進クラスの優等生で、有名国立大の薬学部を目指していて、将来の夢が薬剤師だった。 運動は苦手だったけど、頭が良くて可愛くて、人の悪口は絶対言わないような今時珍しいほど純粋な子で、クラスの男子からも女子からも指示されていた。 俺なんかと付き合ってくれたのはほんと奇跡のような子だった。 純粋で他に男を知らなくて、でも恋に少しだけ興味があって、そんな時にたまたま自分とは全く違うタイプの先輩に声をかけられて、少しだけときめいてくれたのだと思う。 全力で愛して、全力で守って、死ぬまで幸せにしてやると心の中で誓った。 優等生な彼女と、不良品の俺。 当然、そんな二人を祝福する大人などいるわけもなく、俺たちのお付き合いは親と先生が結託して反対する、悪い意味で公認の仲だった。 不良品には何を言っても無駄だと思われていたのだろう、大人たちのバッシングの矛先はいつも彼女に向けられていた。 「彼と付き合ってから成績が落ちている」 「彼は大学にはいかないのだろう」 「せっかく今まで頑張ってきたのに」 「大学にいけばもっといい相手は沢山いる」 「今は恋愛より勉強に集中した方が将来のためだ」 彼女が二年に上がって受験が具体的になってからは、まるで洗脳するかのように毎日毎日飽きもせず、大人たちは彼女に心配するそぶりの言葉をかけていた。 あの頃の彼女は不安定だったと思う。 色白で華奢な体を震わせながら何度も俺の腕の中で「悔しい・・・」と、泣いていた。 自分のやりたいことと、彼女を守るということ。 俺の天秤はいつも左右にガタガタ揺れていてた。 散々悩んだ挙句、ネジが外れたタイミングで俺は夢を諦めて大学に行くことを選んだ。 遅い朝、高校行きのガラガラのバスが薄っぺらな車体を大きく傾けながら交差点を右折した時だ。 もしかしたらこの時に道を間違えたのかもしれない。 けれど、もう戻ることはできなかった。
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