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コウは当時高校生。
家も貧しかったし、欲しいものや行きたい所もあったから夏、冬、春の休みにはアルバイトに精を出していた。
いろいろな仕事を経験するのは楽しかったし、社会勉強にもなった。
そんなある日、コウは風船によ結わえられて飛んできた手紙を拾った🎈
手紙はコウよりも1つ年下の女子高生が書いたものだった。
「わたしの知らない街のことを知りたいです。あなたの街のことをいろいろと教えてください」と書かれていた。
コウは思いきってその女子高生モミジに手紙を送った。
自分も高校生だけど1つ年上なこと、温泉と海がステキな街に住んでいるけど坂道が多くて大変なことを手紙に綴った。
モミジから返事が来た。
「わたしの街も海がキレイで夏には海水浴に来る人たちで賑わいます。コウさんの街は坂道が多いんですね。通学とか大変だけど頑張ってください」と書かれていた。
こうして遠くの街に住むモミジとの手紙を通じての交流が始まった。
モミジの手紙はとても可愛らしい文字で読んでいると優しい気持ちになれた。
コウとモミジは手紙を通じていろいろなことを語り合った。
コウの街は本当に坂道が多くて、坂道に建っているビルだと3階とか4階が玄関になっていることもあることを伝えたら大層驚かれた。
モミジは体が丈夫ではないので本を読むのが好きなこと、コウはスポーツが好きだけどアルバイトをするので運動部には入らずにスポーツは趣味程度にしていることなど色々なことを月に2~3回ずつ交わす手紙で語り合った。
好きな歌手のことを語ったら二人とも同じ女性グループが大好きだったので嬉しかった。しかも一番の推しも同じ右側のコだった。
「わたしは最近シャーロックホームズとか推理小説を夢中で読んでいます。体が丈夫でないわたしでも空想の世界ではホームズたちと一緒にハラハラドキドキの冒険ができりからかな。コウくんはどんな本が好きですか?アルバイトやスポーツで忙しいから本なんてあまり読まないかな?」
「もっとメルヘンな本を読むのかなと思ったらホームズとは意外でした。いっぱい冒険してください。ボクも推理や冒険が好きですが、お察しのとおり小説よりも漫画の方が多いかな(笑)野球漫画もよく読みます」
文化祭の出し物でコウのクラスは演劇をやる
ことになり、コウは貧乏侍の役をやった。貧乏ってところが哀しくもあるが、記念すべき侍姿なので写真を手紙に同封してモミジに送った。
「貧乏っぽさが良く出ていますね。なんてウソ(笑)侍姿凛凛しいですよ。わたしは文化祭で看護婦さんになったのでお礼に送ります。劇の中ですが、いつも面倒をみてもらっている看護婦さんになれて嬉しかったです」
期せずして写真を交換することになった。
モミジの看護婦さん姿はとても可愛い。
この写真はコウの宝物となり、現在でも大切に持っている。色あせていても大切な宝物だ。
コウはアルバイトで色々な仕事をした。
1年生の夏に初めてやったのは大工さんの手伝い。夏の暑い時に屋根に登ったりする仕事はキツくて大変だった。ずっとこんなことをしている大工さんには尊敬しかなかった。親方は仕事には目茶目茶厳しい人だったが、休憩の時にはかき氷をおごってくれて色々なことを教えてくれる優しい人だった。
冬休みは郵便配達のアルバイト。寒いし、怖い犬がいる家もあって大変だけど、みんなに手紙を届けるというのはステキな仕事だ。
モミジからは励ましや労いの言葉がもらえた。モミジは絵を描くのも好きなので、親方の雷やかき氷、犬に吠えられるコウ等をコミカルに描いてくれた。
高校3年生の夏にコウは一大決心をした。
8月の後半にモミジの家からわりと近い街で二人が好きな女性アイドルグループのコンサートがある。そのコンサートにモミジを誘ってみた。
誘ってから返事が来るまではドキドキものだったが、モミジも楽しみにしていると言ってくれたので天にも昇る気持ちになった。
早速アルバイトで稼いだおカネでチケットを2枚買って1枚をモミジに送った。
直前まではアルバイトをして、コンサートの日に間に合うように自転車で旅に出た。
現在のようにナビがあるワケでもないので地図を片手に長い道のりを自転車で走った。険しい山道も続いたがモミジとコンサートに行けると思うと苦にもならなかった。
途中は野宿をして、あまり汗くさかったり汚かったりはモミジやアイドルグループに申し訳ないから前日は安い旅館に泊まって風呂で体をよく洗って服やタオルも洗濯をさせてもらった。
いよいよコンサート当日。
もうすぐモミジに会えるといそいそと席に向かったが彼女はいなかった。開演時間になってもモミジは来ないままにコンサートは始まった。
コンサートは大いに盛り上がったが、隣の空席が寂しかった。だけど、不思議なことにいないはずのモミジが一緒にいるような気持ちでコンサートを盛り上がれた。
帰りに手紙の住所を頼りにモミジの家に寄ってみることにした。約束をすっぽかされて怒っているワケでも文句を言いたいワケでもなかった。
体が丈夫でないモミジだから急に容体が悪くなったのかもと心配だったし、ひと目だけでも会いたかったのだと思う。
モミジの家に行くと姉のカエデが出迎えてくれた。そして、モミジは病体が急変して亡くなったのだと知らされた。
コウと一緒にコンサートに行くのを楽しみにしていて、最期までチケットとコウからの手紙を握りしめて亡くなったとのことだ。
もう葬儀は済まされてモミジの遺影が仏壇に祀られていた。人前なのにコウは大粒の涙を流して泣いた。
「せっかくチケットを取ってくださったのに、こんなことになってしまって申し訳ないね。自分の分はちゃんと払わせるつもりだったから」と母親がチケット代を渡してくれようとしたのを丁重に断った。
娘が亡くなった悲しい時にまだ高校生のコウ
のチケット代を心配してくれる気遣いはとてもありがたかった。
「チケット代は無駄になんかなっていませんよ。ボクは確かにモミジさんと一緒にコンサートを見たんです」
仏壇に手を合わせるとモミジの声が聞こえてきた。
「やっと会えたね。ごめんなさいね、こんなことになってしまって。コンサートとっても楽しかったね。ありがとう」
やっぱりモミジはコンサートに来ていたんだとコウは思った。だからモミジが一緒に盛り上がっているような感じがしたんだ。
それからコウは盆や彼岸にはモミジのお墓や仏壇に手を合わせに行くようになった。
働いて給料をもらうようになり、手段は自転車から電車や車に変わったが、モミジとかわした一言一言を思い出している道中は幸せな時間である。
そして、コウはその度に天国のモミジに手紙を書いて手向けた。返事はもちろん来ないが、手紙を通じて天国のモミジと繋がっている気がしていた。
何回かモミジの家に行くうちに姉のカエデと心を通わせるようになった。
モミジに対して申し訳ない気持ちもあって中々結婚できなかったふたりだが、いつまでも過去に縛られてふたりが不幸になったらモミジも悲しむと周囲に激励されてついにふたりは結婚を決めた。
結婚の報告をした時、モミジが祝福してくれていりような気がした。
コウは郵便局で働いた。
モミジと自分がしたように人と人が心を通わせる手紙を届けてあげる仕事が大好きだった。
やがて郵便局は民営化をして、電子メール、SNSというものが主流となって手紙は少なくなったが、それでも相手のことを想って書かれた手紙を届けてあげるのは幸せな仕事だった。
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