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翌朝。
自分は、起床ラッパの鳴る前に目を覚ました。
昨夜は空だったナンバー2のハンモックには、いつの間にか南条が戻り、眠っている。
どんな夢を見ているのか。
時折、幸せそうに“クフッ”などと微笑んでいる。
少し、頭が痛い。
そういえば昨夜、普段滅多に口にしない西洋菓子を食ったのだ。
それは何の為だったか…
そうだ、手紙。
確か自分は、綾小路麒一郎に渡すための、恋文を書いていたのだ!
机の上の白い封筒をサッと取ると、何故か慌てて自分の懐に隠すように持つ。
自分は、一体何を書いていたのだろうか。
恐封筒を開け、綺麗に折り畳んであるそれを、恐る恐る開いて見た。
そして…
「な、な…」
何だこれはーーー!!!
そこには、本当に自分が書いたものだとはにわかに信じ難い、軟派な言葉がつらつらと書き連ねてあった。
な、な、何が「アイラブユー」だ?!
何が「花と戯れる君が美しい」だ?!
何が「死んでもいい”と思っている」だ?!
グシャ。
グシャグシャグシャッ。
あー、止め止めッ。
一体、何を浮かれていたんだ自分はっ。
夜、熱に浮かされて書いた傑作は、朝、頭を冷やして読み返すと、得てしてこっ恥ずかしいものだ。
自分は、その便箋をボール状に丸めると、両手で完膚なきまでに固め、完璧なコントロールで、ゴミ箱に放り込んだ。
…心を静かにするために、少し水でも浴びてくるとしよう。
自分は、まだ薄暗い中、桶に着替えを入れて、部屋を出るのだった。
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