一夜の熱情

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いきなりで申し訳ないが、 近頃わが寮では、上級生と下級生が“兄弟の契り”を結ぶことが流行している。 兄弟の契りとはいっても、当然、本物の兄弟になれるわけではない。 儀式の方法は、 夜、学舎の中庭の桜の木の下で、白い杯に酒を汲み、互いの小指を傷つけた血を一滴混ぜ合わせ、回し飲むこと。 兄弟の契りを交わす者の多くは上級生と下級生。まれに同期生のものもあるが、多くは上級生が兄となり、弟である下級生が、あれこれと兄の身の回りの世話を焼く。 その代わりに、兄である上級生は、弟分をあらゆる困難から護ってやる。もし弟に何かあれば、命に替えても護らねばならない。 いわゆる女学生でいう“エス”のような関係だ。 郷里の姉上曰く、“エス”の場合、例えば海外の男女がする、接吻(キッス)をするようなイカガわしいものもあるという。 それを聞いた時、自分は、 “なあに、我が学寮に、そのような不埒なことがあるものか” と自信たっぷりに言ったものだが… 同期の盟友で同部屋(ルームメイト)の、南条伊織(なんじょう いおり)にその話をしたら、 「あはは、相変わらずだなあ、甲志郎は。 それくらい、皆やってるよー。 ちなみに僕も、弟の(あずさ)と経験済みさ!」 「な、何、キサマ…」 などと軽いノリで言われてしまった。 25期生一の硬派で通っている小生(オレ)としては、なんと嘆かわしいことかと憤っていたのだが…
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