一夜の熱情

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事の起こりは、ひと月前。 名を、綾小路麒一郎(あやのこうじ きいちろう)という。 予科(制服組、幹部候補生)1学年の綾小路は、色白で華奢、どことなくナヨッとしてみえる男子で、本科の軍事練習についてゆけず、いつも居残りをさせられていた。 その綾小路が、荒くれで有名な本科の4、5名に取り囲まれているところに、たまたま自分がとおりかかったのだ。 「貴様、また最後まで残っておったのう」 「す、すみませんっ、先輩方」 パンッ。 男の1人が、いきなり綾小路(やつ)の腰を叩いた。 たちまちヨロける綾小路。 ニヤニヤしながら、尻を触る。 「…ひっ」 「何と…ナヨッちい腰つきか。 予科では、鍛え方が足らんのではないか?ようし、今から(われ)らが、稽古をつけてやろう」 「え。す、すみません。じ、自分はこれから寮食の配膳に行かねばならず…」 「口答えするな!」 「は、はいっ、申し訳ありません」 1人の男が、綾小路の顎に手をかけ、ねめつける 「俺たちの厚意を無駄にするとは…生意気なヤツだ。 よーし、こいっ」 「ひやっ…よ、止してください!」 彼らは、綾小路のひょろっちい身体を抱え上げると、武道館の方へ歩きだす。 「お、お願いします!配膳に遅れでもしたら、教官殿のビンタじゃすまない… ひーっ」 女のような高い声で悲痛に叫ぶ綾小路。 その姿を、デカイ奴らの壁で隠すようにして、移動している。
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