一夜の熱情

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…本来、予科の我々が本科の連中に口を出すのは、好ましくない。 男子たるもの、己にかかった火の粉は、己で払わねばならん。 しかし自分は… 綾小路の女のような高い声と、男どもの間に見栄隠れする少年のような白くか細い腕に、堪らなくなった。 そして、気がつけば躊躇もなく、群衆に向かって大笑声を張り上げていた。 「おい、綾小路っ!! 貴様、配膳準備まであと一刻もないぞ! そんなところで遊んでいるとは、何事かっ」 デカイ集団がハッと振り向く。 その中のリーダーと覚しき男が顎を撫でつつ、舐めた様子でこちらにやってきた。 「…制服組の。 この一年坊主から、我々にそそうがあってな。今から礼儀とを叩きこむため、制裁を行うところだ」 スッ… ヤツがわざとらしく肩をぶつけようとした肩を、自分はスッと避けてやる。 「きっさま…!」 よろけた男が逆上して振り向いた時、 「か、堅倉寮長殿…」 中心から、怯えた声が聞こえてくる。 と、ようやく気づいたのか、仲間のひとりが慌ててこちらに呼び掛けた。 「日比野よせっ! ソイツ、青風寮の堅倉だ!」 「……エ」 と思うと、自分の襟首を掴み上げ、拳を振り上げていたヤツを置き、雲散霧消に散ってゆく。 取り残された日比野という男は、俺を見てタラリと冷や汗を垂らした。 頃合いを見て自分は、襟首を掴んだヤツの腕をぐいと押し退け、ニタリと笑う。 「……その、あれだ。 …お、覚えてろーーーっ」 じりじり後ずさっていたかと思うと、日比野(ヤツ)は、捨てゼリフとともに、転がるように去っていった… 「あ、あの…ありがとうございました」 「…うん」
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