一夜の熱情

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…ということがあって。 以来、綾小路は、すっかり自分に懐いてしまった。 綾小路(アヤツ)は元々が人懐こい性格らしく、 『センパ~~イ!』 などと甲高い声で自分を追いかけ、何かと世話を焼いてくる。 『こ…こら、何だその間延びした声は。 シャキッとせんか!』 『はいっ』 照れ隠しに怒鳴ると、ピシッと帽子を正しながらも、熱い視線を向けてくる綾小路(あやつ)。 で、 この1ヶ月間、妙にムズガユイ気分になりつつも、放っておいたのだが… 南条の例の話を聞いて以来、どうにも気になっていけない。 そのせいか、毎晩のように綾小路(あやつ)のことを夢に見るようになってしまった。 直近では、なんと自分と綾小路(あやつ)が例の桜の下抱き合いながらキ、キ、接吻(キッス)を… う、わああああっ! ガンッ。 壁に頭をぶつけ、何とか冷静さを取り戻す。 かくなる上は…… 兄弟の契り。 綾小路(アヤツ)の熱い眼差しは、当然それを願っているようにも思える。 だが、同期の間で随一の“硬派”で通っている自分が…そんな…そんな… うわああああああっ ガンッ、ガンッ! 柱の角に2度、頭をぶつけ、とうとう自分は、思い余って南条(しんゆう)に相談した。 すると南条め、ひどく簡単に抜かしたのだ。 『なーんだ、そんなもの。甲志郎(おまえ)から伝えればいいじゃない』 『な、何だと!?』 彼は、持ち前の軟派な様子でヘラヘラ笑った。 『当然でしょ? 下級生からそんなコト、()えるワケないじゃない。 そうだ、口でいうのが恥ずかしいなら、恋文(らぶれたあ)でも渡してあげたら? 今夜は君1人にしといてあげるからさ。 僕、これから梓と密会(でえと)なんだ』 『な、何っ!』 そんな羨まし…もとい。 破廉恥(ハレンチ)すぎる言葉を残して、南条(しんゆう)はイソイソと部屋を出ていった。 しかし… 恋文(らぶれたあ)…か。 ふむ… えーい! いつまでもウジウジしているのは性に合わんん。 砕けて散ったら、それまでのこと。 自分は早速、机に便箋とインクをセットして(海軍は何事も洋式なのだ)、ペンを取った。
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