20人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
『前略
綾小路 麒一郎 殿
突然にこのような文を寄越したこと、相済まない。
きっとさぞや驚いていることだろう。
早速だが、単刀直入に言う。
小生、常々貴様のことを好ましくおもっており…… 』
まてよ。
これじゃあちょっと硬くないか?
一度読み返してみる。
やはり、硬い気がする。
途中まで書いた便箋を、クシャクシャ丸めてゴミ箱へ放り込む。
頭を抱え、懊悩する
うう、一体どうしたらいいんだ?
自分、生まれてこのかた恋文など書いたことがない。
この間、英文学の授業で見せて頂いた活動写真。
自分な、男女間の情愛の、甘い台詞に思わず血反吐を吐きそうになったものだが…
英文科教授のアーサー先生は言っていた。
『グンジンタルモノ、イッカイ“ジェントルマン”デナケレバ、ナリマッセーン。
ニホンジン、“エレガント”ヲミニツケルノデース』
と。
しかし同期で常に成績トップの自分も、文学の授業だけは、いつも次席の南条に敵わない。
“えれがんと”
“じぇんとるまん”
………………。
さっき出掛けに、南条が置いていった西洋菓子でも食えば、少しは理解が叶うかもしれん。
自分は、銀の包みを丁寧に剥くと、甘い薫りを放つそれを口に放り込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!