一夜の熱情

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『前略 綾小路 麒一郎 殿 突然にこのような文を寄越したこと、相済まない。 きっとさぞや驚いていることだろう。 早速だが、単刀直入に言う。 小生、常々貴様のことを好ましくおもっており…… 』 まてよ。 これじゃあちょっと硬くないか? 一度読み返してみる。 やはり、硬い気がする。 途中まで書いた便箋を、クシャクシャ丸めてゴミ箱へ放り込む。 頭を抱え、懊悩する うう、一体どうしたらいいんだ? 自分、生まれてこのかた恋文(らぶれたあ)など書いたことがない。 この間、英文学の授業で見せて頂いた活動写真(えいが)。 自分な、男女間の情愛の、甘い台詞に思わず血反吐を吐きそうになったものだが… 英文科教授のアーサー先生は言っていた。 『グンジンタルモノ、イッカイ“ジェントルマン”デナケレバ、ナリマッセーン。 ニホンジン、“エレガント”ヲミニツケルノデース』 と。 しかし同期で常に成績トップの自分も、文学の授業だけは、いつも次席の南条に敵わない。 “えれがんと” “じぇんとるまん” ………………。 さっき出掛けに、南条が置いていった西洋菓子(ボンボン)でも食えば、少しは理解が叶うかもしれん。 自分は、銀の包みを丁寧に剥くと、甘い薫りを放つそれを口に放り込んだ。
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