トマト

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 わたしはトマトが好き。覚えていないくらい小さな頃から大好きだった。誕生日やクリスマスにお母さんにリクエストしたのは何時でもトマト。ピザやハンバーグじゃあなくてトマト。少し塩をふった甘くてしょっぱい味。想像するだけで口中に唾液が溢れる。  お母さんは健康に人一倍に気遣いがあるので、夕ご飯には必ず野菜を付けてくれる。わたしは生野菜の時は飛び上がって喜ぶが温野菜はがっかりする。卵サラダ、ツナサラダ。そうして赤く熟したトマトが乗っていれば、わたしは生きていて良かったなあと安堵する。毎日、朝昼晩トマトだって構わない。  明日は運動会だ。運動会の日は給食ではなく、お弁当を持って行く決まりがある。お母さんに「おかずは何がいいか」と聞かれた。わたしは「プチトマトを入れて」と懇願した。 「トマトも入れますけど、メインのおかずは何がいいか聞いてるの。お母さんも応援にいくんだから、そんな簡単なお弁当じゃ、恥かしいです」  わたしは好き嫌いは無いし、唐揚げだって、ミートボールだって不平は言わない。 「なんだっていいよ。お母さんも一緒に食べるの?」 「もちろん。じゃあ、サンドウィッチにしましょうか」 「ウン、やった」  わたしは頬の筋肉が上がるのを感じた。食パンに滲みるトマトの果汁、甘さと酸味の調和。ああ、運動会が楽しみだ。 「なにニヤニヤしてるの?その様子だと今年は少し期待してもいいようね」  あっ、それは困る。わたしはどうせ、今年も短距離はビリだろうし、その他の競技も自信がない。胸を張って見せられるのはダンスくらい。いや、ダンスも如何にか人に付いていっているだけだ。わたしが答えないでいるとお母さんが困った顔をした。 「あら、ゴメンなさい。運動会は参加することに意義があるの。だから、気を落とさないでくださいな」
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