トマト

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 わたしは「はあい」と返事をした。幼稚園の頃から、中学3年生の今まで、運動会で活躍したことは無い。  わたしは生返事をした後、リビングからキッチンに行く。ここはカウンター一枚で区切られているオープンキッチンだ。家の冷蔵庫にはいつもトマトが欠かさず入っている。でも一日に食べていいのは2つまでと決められていた。何時かお腹がいっぱいで張裂けそうになるまでトマトを食べてみたい。プリプリとしたトマトを手に取ると頬ずりをした。 「何をしてるんですか。夕ご飯まで時間があるから勉強でもしていなさい」 「はあい」  お母さんはお父さんの再婚相手だ。わたしの本当のお母さんは車の事故で他界している。トラックのよそ見運転で横断歩道を渡っているときに撥ねられたのだ。わたしが12歳の時だから、おおよそ今から3年前だ。それからお父さんは毎日のように気落ちして見る間に痩せ細ったが、1年前に看護婦さんの職をしている今のお母さんと結婚した。わたしはお父さんが立ち直って元気になったことを手放しで喜んだ。 「七菜香さんは運動が苦手なんだから、勉強くらい出来ないと良い高校に行けないんですよ」  高校にスポーツ推薦という方法もあるという。まあ、幾らか勉強も出来ずには入れないらしいがスポーツで高校に入学できるとは羨ましいかぎりである。因みにわたしは美術部だ。絵を描いたり、彫刻を作ったり、時間を忘れるほど集中してやることが出来るのだから、芸術高校に入ることは許されないのだろうかと首を捻った。まあ、でも勉強は嫌いじゃない。現にこの前のテストの結果だって良かった。
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