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「頼る気がないのは感心するわ。本当は魔法を使えばすぐに取り戻せるんだけど、王子が必死になって取り返すっていう事実が欲しいのよ」
「どういうことですか?」
「自分のために体を張って大事な指輪を取り返してくれる……相手がカエルでもキュンとしちゃうわよ」
セレネーがクスリとしながらそう言うと、カエルも小さく笑い返した。
「もしそうなら嬉しいです――あ、あそこにカラスが!」
「ちょうど巣についたところね。さあ王子、準備はいい? 突っ込むわよ!」
「はい!」
さらに速度を上げて、街外れの木にあるカラスの巣へセレネーは突撃する。
直撃寸前まで近づいた瞬間、カエルはツバメの背中から巣の中へと飛び降りていった。
カラスはカァカァとやかましく鳴きながらカエルを踏みつけようとしきりに足踏みし、巣が激しく揺れ動く。「あ、痛っ」「これじゃな……あうっ」とカエルの呻き声が聞こえてきて、木の真上を飛び回りながら様子を伺うセレネーは気が気ではなかった。
しばらくしてカエルの声が聞こえなくなる。遅れてカラスは巣に座り込んで大人しくなる。
(えっ……もしかして……食べ、られちゃった……?)
内心脂汗をかきながら、セレネーは気配を押し殺しながらカラスの背後に回り、そっと巣に近づいていく。
――巣の真下に、指輪を首にかけてぶら下がるカエルの姿があった。傷だらけで汚れてはいるものの、その瞳は目的を果たしたと誇らしげに輝いていた。
慌ててセレネーが巣の下を飛ぶと、カエルが手を放してツバメの背中へ落ちてきた。
「よく頑張ったわね! そんなにボロボロになって……あ、臭うわね」
「すみません、セレネーさんを汚してしまって……」
「私は後でお風呂に入ればいいだけだから気にしないで。それよりも王子……ひどい汚れようね。なかなか臭いは落ちなさそうだし、ケガもすぐは治らなさそうよ?」
「ジーナさんの大切な物を取り返すためなら、これぐらいどうってことありません」
躊躇なくそう言い切ったカエルに、セレネーは心の中で「感心、感心」と頷く。
(王族って温室育ちで汚れたがらない人間が多いけれど、王子は自分が汚れることも、傷つくこともためらわないのね。良い男じゃない)
ジーナの元へ飛びながら、早く報われて欲しいわね、とセレネーは心から素直にそう思う。
取り返した指輪を持ってきたカエルを一目見て、ジーナは目を丸くしながら駆け寄ってきた。
「カエルさん……っ、ありがとう!」
汚れて臭くなっているのも気にせず、カエルを持ち上げて満面の笑みで礼を言うジーナ。それを嬉し気に見つめるカエル。ちゃんと心が通っている気配を見て取りながら、セレネーは気分良く宿まで飛んで帰った。
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