家族思いは良いことだけれど……

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(よっしゃー! これで元に戻る……んんん?)  しっかり唇が触れ合ってキスが成立したことを、セレネーはしっかりと確認していた。  なのにカエルはカエルのままで、なんの変化もなかった。 (え……? ちょっと、なんで戻らないの?!)  セレネーも、水晶球の中のカエルとジーナも、一様に呆然となる。  しばらくしてジーナは、「うーん残念」と軽い調子でつぶやいた。 「王子様と結婚できたら、家族の生活がもっと楽になると思ったんだけどな」  この一言でセレネーはピンときた。 (ああ、なるほどね。この娘、確かに家族思いで気立てはいいわ。でも、家族を幸せにするために結婚したいのであって、相手のために結婚したい訳じゃないのね)  心から望んでいるのは、生まれ育った家族の幸せ。  それが悪い訳ではないけれど、カエルの呪いを解くには都合が悪かった。 (つまり王子を一番に考えて、純粋に王子への愛のみで受け入れてくれる乙女のキスじゃないと呪いが解けないってことなのね……これは面倒だわ)  セレネーは大きなため息をつくと、杖をクルクルと回して光の粒を水晶球へと送る。  するとカエルの体が光に包まれ、ふわふわと体が浮かび上がった。 「王子、別の娘を探しに行くわよ。ジーナにお別れを言って」  カエルの目が強く潤む。けれど涙を必死に溢すまいと堪えながらジーナに笑いかける。 『ごめんなさい、ジーナさん……今までありがとうございました。貴女との日々はすごく楽しくて、ずっと一緒にいたいと心から思っていたのですが……呪いを解くために私はもう行かなければいけません』 『カエルさん……ごめんなさい、力になれなくて……』 『どうか気に病まないで下さい。カエルの身になって、ここまで優しくして頂けたのは初めてで……本当に嬉しかったです。どうかお元気で。ジーナさんの幸せを心から願っております』  目に涙が溜まり切りそうな時、カエルの体が水晶球に浮かび上がり、ポンッと抜け出してきた。 「……おかえり、王子」  唐突な移動に呆然となっているカエルへセレネーが話しかけると、何度か目を瞬かせてから「……ただいま戻りました」と消え入る声で呟いた。 「残念だったわね、王子。悪い娘じゃなかったんだけど……まあ、ほら、まだまだいい娘はたくさんいるんだからさ、気を落とさないでよ」  セレネーの話を聞くにつれて、カエルの目から涙がポロポロと流れ出す。それでもどうにか必死に「そう、ですね……」と気丈に振る舞おうとしたが――。 「ゲ……ゲロ……ゲロロロロロロロロロォォォォォォ――」  やっぱり我慢できずにカエルはその場に突っ伏して号泣した。
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