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キラの意地とカエルの真心
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
期待通り、キラと王子の仲は数日で距離が縮まり、セレネーが傍から見ていて微笑ましい関係を作っていった。
森で何か調査をしているようで、キラはテントに寝泊りしていた。日が出ている間は動植物の調査をして、日が沈むとテントでカエルと雑談を楽しむという生活の繰り返し。見たところ二十歳を過ぎたか過ぎていないかといった年の頃なのに、街でオシャレを満喫するよりも、泥だらけになりながら森を探索することが根っから好きなのだということが、セレネーにはよく分かる。
――大陸の中央の大森林を住処にしている自分と、非常に通じるものがある。キラを知れば知るほど親しみを覚えずにはいられなかった。
そんなキラと一緒にカエルは連日体を汚しながら、彼女が立ち入れない場所を代わりに調べて報告したり、食事も忘れて調査するキラにテントから食事を持ち運んだり、ちょっとした食後のデザートに森の果実を採ったりと支えていた。
(本当に王子って汚れるのを嫌がらないわね。むしろ活き活きしてるような……一体カエルになる前はどんな人生送ってきたのかしら?)
今までのように奇跡を演出しなくてもいいからと、ベッドに寝転がってくつろぎながら水晶球を眺めていたセレネーはふと思う。
カエル生活が長くなったから馴染んでしまったということもあるだろう。しかし元々好きでなければ率先して動かないだろうし、食料を採取することも楽しそうにはできないだろう。
きっと小さい頃は城下町の子供と同じように遊んで育ったのかもしれない。そして気さくで優しい王子に成長したのだろう。
今度機会があれば聞いてみようか――そう考えてから苦笑する。
(このままいけば順調にキラと結ばれて、花嫁探しの旅は終わるじゃない。そうなれば話なんて聞けないわ……魔女が安易に城へ出入りするワケにはいかないものね)
王子に興味が出てきたのに、もう一緒にいられなくなる。
そう思うと少し寂しいような、残念なような気がして、セレネーは水晶に映ったカエルを指で弾いた。
キラは本当にカエルへよくしてくれた。
汚れたカエルをこまめに拭いてくれたり、「体が乾いて辛くないですか?」と水を垂らしてくれたり、携帯していた硬いパンや干し肉などを食べやすく千切ってくれたり、柔らかくして食べやすくしてくれたり――そして寝る前に泥パックを勧めたり。
『本っ当に肌がツルッとモチッとキュッピーンときれいになるんですよ? 騙されたと思って一回やりませんか? 絶対に後悔させませんから!』
『い、いえ、私はこのままで大丈夫ですから……』
『オススメなんだけどなあ……カエルさんのモチピカお肌、触ってみたいんだけどなあ』
無理強いはしないが、キラは連日諦めずに勧めてきた。カエルが元は人間の王子だと教えれば勧めなくなりそうな気はしたが、正体を明かして純粋な愛ではなく、邪な気持ちを芽生えさせて解呪の障害を作りたくない。こちらから指示を出すまで黙っているよう、セレネーはカエルに言い聞かせてあった。
真実を告げられず困惑しながら断るカエルに、セレネーは水晶球越しに「頑張れ王子ー」と応援する。
チラチラと目配せして視線で訴えてくるキラへ、カエルがたどたどしく答えた。
『あの、お気持ちは嬉しいのですが、女性に体を触られるのは……その、緊張するというか、緊張すると言いますか――キラさん?』
ずっとにこやかだったキラの表情が曇る。
今にも泣き出しそうな、どこか悔しそうな、顔の中心へ力を寄せた顔。カエルが心配そうに覗き込んでいると、キラは普段より低い声で呟いた。
『……カエルさんも、私が女性だからって、拒絶するんですか?』
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