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『キラさん、どうかしましたか?』
小声で話しかけるカエルへ、キラがいつになく真顔で呟く。
『この岩窟には伝説があるんです。神の竜が身を休め、時が満ちた時に灼熱を体に宿してここから飛び立つと……研究所内の見解は、噴火によるものだろうってことだったんですけど――』
おもむろに手にしていた物を持ち上げ、キラはカエルにそれを見せた。
『――本当に神様の竜、いるかもしれません』
ランプの明かりを受けて心なしか光を透かすそれは、一見すると拳ほどの大きさをした深紅の輝石だった。しかし石にしては加工したように薄く、あまりに滑らかな表面。よく見ると年輪のようなものが見える。
『これは……鱗、ですか?』
カエルが尋ねると、キラは小刻みに頷いた。
『おそらくそうだと思います。岩をよく見たら下が浮いているなって思って、押してみたら簡単にズレて……そうしたらこの鱗があったんです』
どんな物かとセレネーも水晶球に近づき、キラの手元を大きく映して鱗を見る。
(竜の鱗なんてお宝じゃない。どれどれ……あ、本物だわ。しかもこれ――)
頭の中に詰め込まれた膨大な知識を、セレネーは目まぐるしい速さで探っていく。そして思い当たることが出てきて血の気が引いた。
「王子……キラに伝えて。今すぐ岩窟を出て欲しいって」
(な、なぜですか、セレネーさん?)
「この岩窟の足元、竜の背中だから。半端なくデカいからわざわざ『神』竜って名をつけたって古文書に書かれていたの思い出して……早く避難したほうがいいわ」
カエルが慌ててキラにその旨を伝える。しかしキラは唇を真横に引き伸ばしながら、首を横に振る。
『鱗が落ちていただけでは、まだ神様の竜がいるという証拠にはなりませんから。もっと調べないと――』
そう言いながらキラは岩窟の奥へと進んでいく。カエルはオロオロと動揺したが、すぐに気を取り直して前へ視線を定めた。
(ちょっと怖いですが、このままキラさんに付き合います。早く証拠が揃うよう、私もできる限り頑張ろうと思います)
「……分かったわ。でも、とにかく気を付けてちょうだい。この地震、もしかすると目覚めの兆候かもしれないから」
まだ体は気だるかったが、セレネーは体を起こして気を引き締める。
万が一の時は気絶覚悟でキラたちを含む調査団を、全員転移の魔法で逃すことを想定して、深呼吸を繰り返して魔力を少しずつ蓄えていった。
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