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優しさからのすれ違い
『おい、今女性の声がしたんだが……』
ヒゲを生やした強面の男がキラに声をかける。慌ててキラは帽子を深く被って顔を隠し、カエルは急いでキラの胸ポケットに隠れる。
『す、すみません……あの、興奮し過ぎて高い声が出てしまいました』『……ホラ、こんな感じに出ちゃうんです』『お騒がせして申し訳ありませんでした』
カエルが話している途中でキラが喋り、またカエルが話してその場を誤魔化そうとする。男は不思議そうに首を傾げたが、『そ、そうだったか』と引き下がってくれた。
『興奮し過ぎて、と言ったが、何か発見があったのか?』
『はいっ! 先ほど岩窟内で赤い竜の鱗を発見しました。ここは神竜の伝説がある地。もしかしたら神竜がいるかもしれないと調べてみたら、この下で眠っている神竜を確認しました』
カエルよりも先に、キラが興奮気味に口を開く。その突拍子もない話を聞いて、男はこれでもかと目を見開いて驚いた。
『な……っ?! つまり我々は神竜の上に立っているということか!』
『そうです! いつ目覚めるとも分かりませんから、一度調査団を批難させて岩窟外周辺の調査を――』
キラが活き活きと報告している最中だった。
『あれ? この声、キラの声じゃないか?』
『そうだよな。どう聞いてもそうだような』
男の背後から他の調査団員たちが数人やってくる。その中にキラを知る者もいるようで、聞こえてきた話し声にキラが息を呑みながら口を閉ざす。
『あ、あの……頻繁に続いている地震は、その、竜のいびきのようで……早く避難をしたほうが良いと思います』
慌ててカエルがキラの代わりに話すが、不自然なまでにたどたどしい。その場にいる男たちが各々に首を傾げ、『誰だ、コイツ』と訝しみ始めた。
痺れを切らせたキラが、帽子を取って正体を現した。
『ああっ! やっぱりキラか!』
『いつかやるんじゃないかと思ってたけど……本当にやっちまった』
顔見知り――彼らも若いところを見ると、キラの同期なのだろうとセレネーは察する。困惑が色濃くなる中、キラは彼らをひとりひとり見ながら訴える。
『勝手なことをしてごめんなさい……女性でも過酷な地での調査はできることを証明したかったんです。あと、神竜の話はデタラメじゃありません。鱗もここに――』
腰につけていたポーチからキラは鱗を取り出して、最初に話していたヒゲの男に手渡す。すると男たちが群がり、鱗をマジマジと見てきた。
ヒゲの男もしばらく鱗を眺めてから、団員たちを見回して指示を出す。どうやら彼が調査団の長らしい。
『まずは岩窟内から撤収し、近くの開けた場所まで戻るぞ。今すぐ他の者にも声をかけてくれ』
言われるなり『分かりました』と男たちは踵を返し、岩窟内の他の団員たちを探しに向かう。そして団長はキラに目配せし、ついて来いと促してきた。
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