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一瞬キラは身を強張らせてから頷いて団長に近づく。強面の鋭い目がギロリと向けられたのも束の間、彼は小さく息をついて眼差しを和らげる。
『君がどれだけ優秀な人なのかはよく知っている……所内で有名だからな。ただ言い訳をさせてもらうが、我々は女性を軽視して調査する場所の制限をしている訳ではない』
『……では、どうして制限を?』
『研究者は調査と研究所の行き来がほとんどで、所内で恋人や夫婦を作ることが多い。だから大切な相手に危険な場所や過酷な場所へ行って欲しくないがために、先人が決めたことだと聞いている。守りたいがためのワガママ……これでいいとは思っていないが、女性を見下したものではないことだけは知ってもらいたい』
なるほど、国を挙げて研究に力を入れているからこその事情らしいと、セレネーは得心する。他にも理由は想像つくが、恋人や妻をひとりだけ特別扱いするワケにはいかないからと、ならいっそ女性そのものを……となったのだろう。
キラの表情が納得できないと言わんばかりに膨れている。反論の言葉を探しているような気配が濃くなる中、カエルがキラの胸元から顔を出した。
『大切な人を守りたいのは女性の方も同じですよ』
『……っ! しゃ、喋るカエル?!』
ビクッと団長が大きく肩を跳ねさせる。驚かせてすみません、と苦笑してからカエルは話を続ける。
『私は訳あってキラさんの所に身を寄せている者です……見ての通り、こんな小さくて非力な頼りない身ですが、それでもできることはありますし、少しでも大切な人を支えて喜んで頂きたい――この気持ちを抑え込められて、喜ぶ人なんていません』
『カエルさん……』
穏やかに話すカエルを、キラが瞳を輝かせながら見つめる。心をしっかりと掴んでいる手応えに、セレネーが水晶球の前でグッと拳を握る。
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