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号泣カエルは頼りなくて
「ケロロロロロォォォ……セ、セレネーさーん……ヒック……助けて下さいー……ゲコッ」
ペタペタと足音を立てながら部屋へ現れたのは、ヒキガエルほどの大きさはありながらも、お腹がスリムな緑のカエルだった。
しきりに涙を拭っているが間に合わず、体が涙に塗れて物悲しげな深緑になっている。
ふう、と息をついてから、セレネーは立ち上がってカエルを見下ろした。
「一体どうしたのよ王子? 赤ん坊じゃあるまいし、そんなに泣いてもなんの解決にもならないでしょ? いい加減泣きやんで話を聞かせなさいよ」
甘やかさないセレネーのひと言で、カエルは必死に涙を拭い、こみ上げる嗚咽をこらえる。
セレネーが立ち上がっても肩に乗ったままのネズミは、カエルを物珍しそうに覗き見てから小声で訪ねてきた。
『え、コイツが王子様? こんなに泣き虫で、王子様っていう煌びやかなオーラもないのに? オイラの知ってるカエルの王様とその息子の王子様は、もっと堂々としていて威厳があったよ』
「言っとくけど、彼、一応人間の王子だから。悪い魔女に魔法をかけられて、カエルになっちゃたのよ」
『ふーん。魔法のせいで姿だけじゃなくて、王子様オーラもなくなっちゃったんだ。可哀想に』
「……アンタ、何気にひどいわね」
カエルがネズミ語を分からないのを良いことに、ネズミは好き勝手に話す。それを呆れた目でみながら、セレネーはカエルが泣き止むのを待つ。
数分後。
嗚咽がようやく消えて、カエルは泣きすぎて真っ赤になった目でセレネーを仰いだ。
「ゲゴ……グス……お見苦しいところを見せてしまって申し訳ありません」
「気にしてないわ。……何があったの?」
「実は、その……カエルの呪いが解けないのです。せっかくセレネーさんに解呪の魔法をかけてもらって、それを発動させる条件も満たしたはずなのに……」
言い終わらない内にカエルはうなだれた。
かけられた呪いを解くためには、解呪の魔法が不可欠だ。
ただ、魔法をかければいいという訳ではなく、それを発動させる鍵が必要なのだ。
呪いの力が強ければ強いほど、解呪の条件は厳しさを増す。呪いに込められた恨みや悲しみや妬みなどの負の力を上回ることをやり遂げて、呪いを魔法で上塗りしなくてはいけない。
以前、生まれて間もない姫に『十五歳で死ぬ』という呪いがかけられた時、セレネーが解呪の魔法を施したのだが――。
その姫は百年の眠りと王子のキスでようやく目覚めるという条件だった。
姫はまだ幼く、ひたひたと近づいてくる苦難を知らない。
死に関わることはそれだけ大きな代償が必要となる。
しかし、ただ姿を変えるだけの魔法は、あの姫の呪いに比べればまだ易しくて単純だ。あくまで比べればの話だが。
セレネーは苦笑しながら首をかしげた。
「解呪に必要なのは、王子へ心からの愛を捧げる乙女のキス。カエルにキスできる娘を見つけるのは難しいとは思ってたけど……でも王子、話からするとキスしてもらえたって事よね?」
「はい……とても可憐で優しい姫で、何度も逢瀬を重ねて、楽しくお喋りして――ようやく将来を誓い合う仲になって口づけを交わしたのですが……結果は見ての通りです」
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