号泣カエルは頼りなくて

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 こんな時に嘘をついても、なんの意味もないはず。そもそも嘘をつけるようなヤツじゃない。  口元に手を当てて、セレネーは考え込む。  色々と考えて出た結論は――。 「悪いけどそのお姫様、王子の事を愛していなかったんじゃない?」  ポカン、とカエルの口が開きっぱなしになる。  そして弾けたように首を激しく振った。 「そんなハズはありません! 姫は私が何者であっても好きだと言ってくれました。もし王子ではなく、ただの村人だったとしても構わないと……」 「言うは易し、ね。じゃあキスしたけど王子が元に戻れないって分かった時、お姫様はどうしたの?」 「……嘘つき! と言って、私を掴んで木に投げつけました。当然ですよね、結果として私が嘘をついてしまったようなものですから」  話を聞いて、セレネーはネズミと見合わせる。  どちらの口端もヒクヒクと引きつっていた。 『うわー、ネズミのオイラでさえ分かることなのに……世間知らずな王子だな』  セレネーも同意見なので「そうね」と小声で相槌を打ってから、息を吸い込んだ。 「ひとつ聞くけど、王子は愛した人の姿が戻らないからって、突き飛ばしたり叩き潰したりするの?」 「まさか! なぜ元に戻らないのだろうと悲しむとは思いますが、他の方法を一緒に考えると……あ」  ようやく鈍いカエルも気づいたようだ。  セレネーは渋い顔をしてうなずく。 「つまりそういう事。本当に王子を愛していたなら、少なくとも木に投げつけるなんてマネはしないわよ。薄っぺらい口先だけの愛じゃあ、王子の呪いと釣り合いが取れないわ」 「そうだったのですね……分かりました。また最初からやり直します」  そう言ってカエルは肩を落とし、セレネーたちに背を向けて立ち去ろうとした。  哀愁が漂う小さな背中を見て、セレネーは顔をしかめた。 (これだけ世間知らずで鈍い王子に、ひとりで呪いを解いてくれる乙女を探すなんてできるかしら? また同じことの繰り返しになるような……でも、お節介でついていきたいけれど、今は大釜から目が離せないし――)  あれこれ思案していると、耳元でネズミが『どうしたの?』と尋ねてくる。  瞳だけを動かし、セレネーは横目でネズミを見つめた。 「王子、ちょっと待って! アタシも一緒に行くわ。今準備するから」  言うなりバタバタと部屋の隅にあったホウキと、素人目には貧相な木の小枝にしか見えない魔法の杖を手に取ると、杖の先を肩のネズミに向けた。 「アンタ、ちょっと手伝ってもらうわよ」 『へ?』  目を丸くしたネズミに構うことなく、セレネーは魔力を杖に送った。  ボフッと煙に包まれ、驚いたネズミが床へ降りる。  ――煙が消えると、そこには短い銀髪の見目良い少年が咳き込んでいた。  少年は愛嬌のある丸い目で、うらめしそうにセレネーを見上げた。 「急になにするんだよ。オイラはこれでも繊細なんだから……あれ? ネズミ語が話せない?!」  オロオロする様がネズミそのもので、セレネーは思わず吹き出す。 「あら、ごめんなさいね。意外とアンタ男前じゃない」 「当たり前だろ。ネズミ界じゃあ、ネズミの貴公子なんて言われてんだから」 「ふーん。貴公子なら、女性の頼みを断るなんてことはしないわね?」 「それは当然だけど……」 「アタシ今から家を空けるから、そこの大釜の中を混ぜててよ。底を焦がさないようにね。お留守番よろしく!」  じゃあ、と手を挙げるとセレネーはネズミの返事を待たずに踵を返し、呆然となっていたカエルを手に乗せる。 「アタシが一緒に行くんだから、さっさと呪いなんて解けるわよ。だから元気出しなさい」 「セレネーさん……ありがとうございます」  深々と頭を下げたカエルから、温かい雫がひとつ落ちてセレネーの肩を濡らした。
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