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水晶球の選定と魔女のにんまり企み
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
小屋を出てすぐにセレネーは玄関前に立てかけてあったホウキを手にして跨ると、軽く跳躍した。
タンッと地面を蹴って両足が地面から離れた瞬間、ゆっくりと木々の上まで浮かび――ギュンッ! 周囲に障害物がなくなった途端に空を疾走した。
「うわあ、凄いですね! もう森があんな遠くに……」
セレネーのフードに入っていたカエルが、もぞもぞと動きながら感嘆の声を上げる。さっきまで泣いていたとは思えない嬉々とした反応に、現金ねぇ、とセレネーは苦笑する。
「景色見るのはいいけれど、落ちないでね。アタシそこまで責任持てないから」
「は、はい、すみません。空を飛ぶなんて初めての事なもので、嬉しくてつい」
照れ笑いを交えてから、カエルは声の調子を落とした。
「……私の呪いを解いてくれる姫は、見つかるのでしょうか? 情けない話ですが、自信が持てません」
どうやらさっきのはカラ元気だったみたいね。王子にしてみれば、呪いが解けなかった上に失恋しちゃったから、そうそう簡単に立ち直れなくて当然よね――って、ちょっと待って。なんか引っかかることを言ったわね?
カエルの弱音に同情しながら、セレネーはふと首を傾げる。
「ねえ王子、ひとつ聞くけど……もしかして今までお姫様ばっかり狙ってたの?」
「はい……私が元に戻ることができれば、その方を妃に迎えなければいけませんから。誰でもいいという訳には――」
こ、この世間知らず……っ!
と叫びそうになったが、どうにか唇を硬く閉じて呑み込むと、セレネーは大きく息をついた。
「あのねぇ……それ、すっっっごい高望みだから。カエルにキスできるお姫様なんて、限定し過ぎだわ。そもそもカエルってだけで毛嫌いする女の子は多いし、触るどころか姿を見るのも嫌だって子も珍しくないのよ? それなの姫限定だなんて……そんなことじゃあ死ぬまで呪いが解けないわよ」
フードの中からハッと息を引く音が聞こえてくる。本当に気づいていなかったようで、カエルは魂でも抜け出そうなほど長いため息を吐き出した。
「はぁぁぁぁぁ……確かにそうですね。今まで立場にこだわりすぎてました。王族は王族と結婚するのが当然だと思っていましたから……」
どんよりとフードから重く湿った空気が漂い始め、セレネーは顔をしかめる。これから旅を始めるというのに、最初からこんなに陰気だと滅入ってしょうがない。
「んふふ……もっといい所よ」
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