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翌朝。起床してから宿の朝食を頬張り、お腹を満たした後、セレネーは部屋に戻って水晶球を手に取った。
「さあ、うまくやってるかしら王子」
軽く目を閉じて、ゆっくりと呼吸しながら魔力を水晶球に注ぎ込んでいく。おもむろに目を開けば、水晶球は二人の様子を映し出していた。
ジーナはすでに起床して、元気よく店の準備に取りかかっていた。彼女のエプロンのポケットには、人から見えないようにカエルが身を縮めて待機している。
(よしよし、まず第一弾は成功。やっぱり雰囲気作りは大切よね)
好調な出だしにセレネーは笑顔でうなずく。しかしすぐに表情を引き締め、部屋の机に水晶球と魔法の杖を置いて椅子に座り、二人の姿を追い続ける。
後はほったらかし、という訳にはいかない。これからが正念場だった。
しばらく二人を見守っていると、ジーナが大きな貝を下ごしらえし始める。器用にナイフで殻を開け、中の身を取り出していく。
セレネーは魔法の杖を水晶球へ向け、えいっ、と魔法をかける。
すると次にジーナが開けた貝の中には、ほんのり青みがかった大きな真珠が入っていた。
ジーナは「まあ!」と驚きの声を上げてから、「これもカエルさんのおかげかしら……」とつぶやいた。
本当にカエルが幸せを運んでくれると思わせなくては、あっさり投げ捨てられる可能性が高い。この嘘を本当のように演出し、カエルと過ごす時間を増やし、心を通わせられる機会を作ることがセレネーの役目だった。
(世間知らずだし、元に戻ったらどんな顔かも知らないけど、中身は素直で優しいから、王子がどんな人間かっていうのが分かれば、あの娘の気持ちも動くと思うのよね)
自分はあくまで王子の人柄を知ってもらうための機会と時間を作るだけ。そこから上手く結ばれて、呪いを解いてもらえるかどうかは王子次第。
出来ればこの娘で終わりますようにと願いつつ、セレネーは魔法の杖を手にしながら、幸運を演出する機会を伺った。
ジーナが買い物に出かければ、近所の人に野菜や果物をおすそ分けされ。
仕事に勤しんでいれば、気前のいい客が「お釣りはいらないから」と余分に払ってくれたり、ジーナにチップを渡してくれたり。
うっかりジーナがお皿を落としてしまい、それを割れないように魔法をかけようとしたが、いち早くカエルが床に降りて皿を受け止めてくれたり――受け身じゃない姿勢は感心するわねーと思いながら、セレネーは気分よく幸運を授けていった。
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