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その機会はすぐに来た。
夕食に、キャベツと豆腐の味噌汁が出たのだ。
(味わって食べなくちゃ…!)
気を引き締めて、噛みしめるように箸を運んだ。
(…あれ?)
もう一口、さらに一口。
食べながら、きっと今にも泣き出しそうな顔をしていたのだろう。
「どうしたの?」と怪訝な顔をした母に問いかけられたが、なんでもないと声に出すことすらできず、辛うじて首を横に振った。
味が、わからなかった。
厳密に言えば、舌への刺激として『しょっぱい』のはわかった。
が、それだけだ。
出汁の風味、具材や味噌の味を総合した、『料理としての味』を感じることができなかった。
その後も何日か、味わって食べようとしたが、無駄だった。
「ごはんじゃなければいいのかも!」と誕生日を待ってみたりもしたが、手作りの甘いホールケーキを食べても、結果は一緒だった。
その状態がその時から始まったのか、それよりも前からそうだったのかは今でも分からない。
とにかく、自分はどこまでも親不孝だと思った。
すっかり「『おふくろの味』を忘れたまま死すべからず」という思考に取り憑かれていたので、母のために死んであげることもできないと嘆いた。
母の料理を食べることが苦痛になるのに、時間はかからなかった。
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