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1. I hated eating at home
母は愚痴の多い女性だったが、特に何度も口にしていた言葉について、今でもよく思い出す。
「料理が嫌い」
「外食が好きだって言うから結婚したのに」
彼女はそれでいて完璧主義で潔癖症のきらいがあったため、よせばいいのにおやつまで手作りしては疲弊し、呪詛のように毎日同じ言葉を繰り返した。
ある日、母はなにも「外食が好き」だと言うのが決め手で父と結婚した訳ではない、ということを知った。
妊娠してしまったからだ。
その結果が自分である。
ここまで知ってしまえば、幼い自分に導き出せるのは短絡的な図式だった。
「私さえいなければ、母はしたくない結婚も料理もしなくて良かったんだ」
自分はいらなかったんだと悲しくて、母に申し訳ない気持ちでいっぱいで、いなくなってあげなくてはと思い詰めて団地のベランダから飛び降りようと思った。4歳の時のことだ。
ふと、昼間の刑事ドラマの再放送で『おふくろの味』に涙する犯人を不思議に思った時の会話を思い出した。
「なんでこの人、ママのごはん食べて泣いてるの?」
「自分が育った家庭の味は、どんな時も忘れない大切な思い出だからよ」
まずい、と血の気がひいた。
たしかその料理は味噌汁だったのだが、
(ママのお味噌汁の味、覚えてない…)
それはとても薄情なことではないかと青ざめた自分は、次に飲む味噌汁の味をしっかり覚えて、死ぬ間際でも思い出せるようになったら死のうと決意した。
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