白いカラスを描くのは

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 名無しちゃんには、唯一の特技と呼べるものがありました。  絵を描くことでした。夏休みや冬休みに提出する絵は誰よりも上手でしたが、賞に選ばれたことはありませんでした。コンクールに出品する絵は先生達が決めるのですが、学校の中には誰一人として名無しちゃんに関心のある人はいなかったのです。  名無しちゃんは律儀(りちぎ)に約束を守る子でもありました。  交代のゴミ出し当番も「代わりにやっといて」と頼まれれば忘れずにゴミ袋を運び、飼育係から「私、虫嫌いだから」と、ちょうちょの幼虫の世話を引き受けて、「私も虫は苦手なんだけどな」と思いながらも毎日葉っぱをちぎるのでした。  ある日のことです。  名無しちゃんが登校早々、いつものように机の上に散らかったゴミを捨て、ひきだしに飲みかけの牛乳パックが無いことを確かめ、机の落書きを消し、床にぶちまけられたロッカーの中身を、ホコリをはたいて元に戻していたときのこと。  みんなの中心になって名無しちゃんをからかっている男の子がニヤニヤしながら近付いて来ました。この子にも名前を付けておきましょう。彼の名は、からかいくんです。  基本的に名無しちゃんは、いないものとして扱われているので話しかけられることは少ないのですが、からかいくんはなんとも楽しげに話しかけました。
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