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陶製の大振りな洋杯が空になり、北衛が一息をつけたのはほんの束の間だった。
火夜から、口付けられた――。
それが更なる水を求めてではないことは、北衛にもはっきりと分かった。
熱を持った体の、最も熱く猛る箇所を火夜に押し付けられて思い知らされる。
とっさに、突き放すことは出来なかった。
己へとすがり付く火夜の手の指の強さに、目の光の烈しさに北衛は憶えがあった。
何故だか、日び己が弔う、飛竜の御霊と火夜とがピタリと重なった。
死出の旅立ちへの、せめてもの贐として己が体を差し出す、悼むべき死せる飛竜の姿とに――。
そう思えば、思ってしまえばもう、北衛が行なうべきことは限られていた。
自らが進んで、火夜へと口付けた。
夜着の合わせ目から手を滑り込ませ、じかに下肢へと触れた。
思えば、あれが火夜の『精の通り初め』だったのだろう。
あっけなく達して、ただただ精を放った。
そのことに、己でも酷く驚いていた。
――あの時、手を焼いた熱さは、今先ほどのとは全く比べものにはならなかった。
北衛はじいっと己の右の手のひらを見つめ、思う。
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