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火球の夜に訪れた子供
火夜は、死んでより重くなった蜥蜴人たちの屍を引きずりひきずりし、全てを崖下の海へと落とした。
裏口から館へと入ろうと古びた木戸を開けたところに――、ぼんやりと光るものがあった。
白い夜着をまとった北衛の立ち姿だった。
「火夜・・・・・・」
「――御休みになられていてよろしかったのに」
洋に口酸っぱく直されたおかげで、今では貴き人に対する口のきき方も一通りになっている火夜だった。
しかし、舌がもつれて貼り付く感じは己でも否めない。
北衛は夜着の長い裾を物ともせずに、火夜へと歩み寄ってくる。
「おまえが危ない目に遭っているというのに、安穏と寝ていられるものか!怪我はないか?」
「はい」
火夜の、けして大声ではないが力強い返事にも、北衛の憂い顔は晴れなかった。
腕を手を伸ばし、北衛は火夜の頬に触れようとする。
骨が最も高いところに、固まり更に色をどす黒くした蜥蜴人の血がはねていた。
白く長い指先が辿り着く前に、火夜は身を退く。
物音はおろか、気配すらも感じさせない身のこなしだった。
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