火球の夜に訪れた子供

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 北衛の(ねや)(おとな)う火夜は、必ず夜が明ける前に己の部屋へと引き揚げていく。  この館へと来たばかりの頃の火夜は、夜毎にうなされていた。 命辛がらに救けられた、あの夜の夢でもを見ているのだろうか。と北衛は思っていた。 ――何を問うても、酷く怯えて震えるばかりだった。 見るにみかねた北衛が添い寝をして、ようやくに眠りへと就く有り様だった。  それが、そんな火夜が――。 北衛は乱れた夜着の襟元を直していて、我知らずの内に右の鎖骨に指を這わせた。 すぐさま止めさせたが、先ほど不意に火夜から口付けられた。 まるで火を点けられたかのように、感じられた。  ある夜を境に、火夜はまるで変わってしまった。と、北衛は思い出す。 その夜の火夜は、ただ夢にうなされているだけではなかった。 陸に打ち上げられた魚の如く、しきりに寝返りを打っていた。 体は酷く熱を帯び、水を求めているのは北衛の目にも明らかだった。  しかし、火夜は何故だか一向に、北衛が差し出す洋杯には口を付けようとはしなかった。 汗に濡れた黒み掛かった銀の髪を振り乱し、顔を背けるばかりだった。   意を決した北衛は自らの口に水を含ませ、火夜の半ば開いた口へと移し飲ませた。 刹那、火夜は驚いたように朱の色が強い目を見開いた。 ――しかし、すぐに閉じた。 二度三度と北衛が繰り返すうちに、施される水を大人しく飲み下すようになった。
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