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1、ココナシ
春。入学式の日に合わせたように桜は満開になり、春の優しくあたたかい風に合わせて花びらを踊らせながら落としてゆく。
僕は新入生代表の挨拶も聞かずに、体育館のギャラリーの窓から見える穏やかでスローモーションの景色を見ていた。
「なあ、おい、ココナシ、俺らの担任あいつだ。なんか怖そうじゃん。やだな」
隣に座っていた加藤が肘で僕をつついて囁いたので、僕は視線を前に戻した。外の景色とは正反対の緊張感のある空間が広がっている。今日僕は豊田北中学校に入学する。とは言ってもここは公立中学なので、周りは半分くらいが小学校から一緒の知った顔であった。
「ココナシ、なあ、ほら、あいつ」
違う。僕はココナシなんて名前じゃない。香山俊介だ。そう言いたい気持ちを抑え、僕は加藤と一緒に首を伸ばして整然と並ぶ生徒の隙間から新しい担任を探した。
○
僕が「ココナシ」なんていうお菓子みたいなおかしな名前で呼ばれるようになったのは、小学一年生、今から六年前まで遡る。
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