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僕が目の前の小さな死を理解出来ずに瓶を机の上に置き眺めていると、動かなくなったトカゲを見て、クラスメイトが口々に「かわいそう」とか「ひどい」とか「俊介くんが殺した」とか言った。
そして、クラスの中で変にませていてお坊ちゃんという感じの奴の言葉で、僕の人生は悪い方に大きく動いたのだ。
「悲しくないから俊介くんは泣かないの?」
わからなかった。僕は、多分悲しいと思っていたけれど、涙が出ることはなかった。僕の代わりに、昨日トカゲを触ってはしゃいでいた女子が泣いて、クラスの雰囲気が悪くなる。その子が泣いている理由はもっとわからなかったし、そのおかしな状況が、幼い僕の記憶にも、クラスの皆の記憶にも、しっかりと刻まれた。
小学一年生の記憶なんてほとんど無いものだけれど、その出来事だけは今になっても鮮明に思い出すことができる。
俊介は泣かなかった。その印象は僕の普段あまり感情を表に出さない性格によってクラスメイトに深く刻まれ、高学年になって皆が沢山の言葉を覚え始めた頃には、いつの間にか「心なし」から「ココナシ」と呼ばれるようになっていた。
言われてみれば上手く笑うことは出来なかったし、怒ることもなかった気がする。もちろん、泣くこともなかった。
小学校の卒業式では担任の先生が退任するタイミングが重なって、沢山の人が泣いていた。僕は先生が嫌いじゃなかったし、私立に進学する友達とお別れになるのも辛かったのに、全く泣くことは出来なかった。理由はわからない。
クラスメイトは特に何も言わなかったけれど、あいつはココナシだからしょうがないという視線と雰囲気は感じられた。
そして、一緒に公立中学に進む大勢の生徒によって僕の最悪なあだ名は引き継がれ、香山俊介ではなくココナシと呼ばれる三年間がスタートする。
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