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──この生き物の名前、何だっけな
視線を横に移すと『イモリの飼い方』という本が水槽に立てかけてあった。イモリ。イモリか。
静かな教室の中で一匹、水槽に閉じ込められて何処か遠くを見つめじっとしているそれは、小学一年生の頃の嫌な思い出を引っ張り出した。
帰り際に理科室の教室説明を読むと、イモリの飼育は飼育委員会が担当していると書いてあった。
このときは自分でも理由はわからなかったが、次の日、クラスの委員決めで僕は飼育委員に立候補した。
○
入学から一週間が経ち、新しく始まった生活の慣れないむずむずとした感覚がおさまってきた頃。
今日は放課後に、各委員会の顔合わせがあった。飼育委員の顔合わせ教室は三年一組で、中に入ると一年の教室とは違った雑然とした雰囲気を感じる。
同じクラスの飼育委員である佐藤さんと一番後ろの席に座り、飼育委員長と担当の先生の話を適当に聞いた。
飼育委員は、各クラス二人ずつで、上級生を含めると二十人以上いる。飼育委員といっても、この学校には生き物があまりいない。
校舎前と校門前の花壇の花の世話と、校庭の端にある人工池の鯉の世話がメインで、委員のメンバーは佐藤さんのような花が好きそうな見た目の女子と、サボりたくて仕方なくこの委員に入ったような男子が多いように見えた。
殆どの人はその二つの担当を希望し、残りの数少ない真面目そうな人達が夏に行われる体験学習での動物園訪問の役員を希望していた。
僕は、黒板の一番端に書かれた「イモリ飼育担当(二名)」の下に自分の名前をチョークで書き入れた。暫く話も聞かずに窓の外を見ていて、次に黒板を見たときには、僕の名前の下にもう一人の名前、和田海斗という字が乱雑に書いてあった。
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