これは正しくハーデンベルギア!!

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これは正しくハーデンベルギア!!

学校にあるほとんど人が通らない林の様に木々に囲われた脇道。 空は快晴で青い色が澄み渡っていた。 「なんです?会長様?」 櫛を入れれば質はいいだろきれいな濡烏な髪を持っている彼。 しかし自身のなりに無頓着なのか、少し寝癖で跳ねる髪と、最近散髪に行っていないだろうと分かる、目元どころか鼻の途中まで隠している鬱陶しい前髪。 そのせいで顔の特徴は分からないが、黒縁の最近は流行っていないだろう、縁もレンズも分厚い眼鏡。 確かにきちっと制服を着てはいるが、どこにでもいる高校生のように、シャツの首元は一つボタンが開けられ緩くネクタイが結ばれている。 そして根暗に見える彼には違和感を感じさせるほどのガタイの良さと、体は薄くなくむしろ程よく筋肉すらついていそうな厚さである。 今時珍しい姿勢の良さが、ますますガタイの良さを際立たせている様に見える。 そんな彼の前に立っているのは、彼に会長様と呼ばれた彼と同じ性別の人である。 「あー、なんだ。その。」 首の後を右手で擦りながら、左手をブレザーのポケットにいている様も格好いいが、 その人の容姿の特徴に見合わない慌てっぷりに彼は首をかしげる。 その人は、学校中から憧れや恋愛目線で引く手数多の存在である。 両親共に資産家に加えて、その人のどちらの祖父母も資産家である。 容姿なんかは父親が外人、それもヨーロッパのどこかの国の人らしく日本人より彫りが深い。 日本では地毛としてはほとんど見かけないブルネットより少し薄い茶色の髪を、日本人サラリーマンに見かけるかきあげビジネスショートのような髪型をしている。 余談であるが、切った当初はその容姿で何故あえてその髪型にしたんだ、と囁かれていたが、似合っているどころか、そんな髪型が無駄に格好いいように見え真似する男子生徒が出たくらいだ。 まあ実際真似した男子生徒は似合う似合わないも何もサラリーマン風になるだけであったが。 それに加え瞳の色が青っぽい緑っぽい色をしている彼はどう見ても外人、ついでにモデルや俳優、絵本の中の王子と言われるほどの容姿である。 ガタイも厚さも彼同様、もしかしたらそれ以上に良い体つきかもしれない。 「..........。」 いや、どうしろと? 彼は、会長様、と嫌味を込めて呼んだにも関わらず、あの人は狼狽えむしろいつもと違い心許なく儚く見える。 なんか瞳が潤んでいるような....。 俺なんかしたっけか? いやいや、関わった事どころか話したこともないよなぁ? 何も言わないあの人を見つめ返す彼は無表情ではあるが思案していた。 しかし、なにかした覚えも無ければそもそも接触した覚えもなかった。 と言うかこの状況を盗み見るように木の上にいるあれはなんなんだ。 立ち去るわけにもいかず無表情で棒立ちすること数分。 あの人は意を決したように突然顔を上げ見つめ返してくる。 そして目元を潤ませ無言で突き出してくる手は、先程までブレザーのポケットに入っていた左手である。 その左手には薄青く色づく四角い紙質のもの。 どうしていいか分からず、とりあえず受け取り、裏表とクルッと何回かひっくり返す。 何回確かめても手紙と言うか封筒のようだ。 意図をはかりかね手紙からあの人へと目線を移す。 頬を赤らめ、目元に涙が溜まっていた。 いつも格好良く学校や生徒をまとめ上げ、頭も運動神経も良いあの人が、泣きそうになっているのに目を開き、零れ落ちそうな涙を親指ですくい上げる。 何も言わない事をいい事にとりあえず放置し手紙の封を開ける。 中から一枚の手紙が出てくる。 これを読めって事か? 言葉で伝えればいいのにな。 拝啓 松家(マツイエ) (カイ) 様 好きだ。 結婚を前提に付き合ってはくれないだろうか。 敬具 椿(ツバキ)・カールトン (カメリア・カールトン) うん? 俺、会長様に接触した覚えがないんだけど? 「会長様。 どうしろと?」 「付き合ってくれないのか....?」 「くれないのか?って言われてもなぁ。 俺接触した覚えがないんだけど。」 自分の頭をガシガシと、手紙を持っていない方でかきまわしぐじゃぐじゃにする。 問い詰めたかったわけではないが、必然的に問い詰めるような言い方になってしまい、すぐにそんな自分に反省しため息を吐く。 彼のそんな言葉と行動にピクッと揺れる大きな図体に、また泣きそうだなと視線を絡める。 「学校の裏庭でよく昼寝していただろ。 ちょうど凱....、いや、松家がくつろいでいる位置が生徒会室から見えるんだ。 俺は入学してすぐに生徒会長に祭り上げられた。 嫌でやりたくなくて全身全霊で断っていると言うのに、 生徒や先生からはまとわり付かれ、視線が来ない日はなく、いつ寮の部屋に侵入されているのか取っても取っても盗聴器が仕掛けられ、心も体も休めるところがなかった。 そんな疲れ果てていた一ヶ月後に、たまたま背後にある大きな窓に目をやった時、あの場所に松家がいて....。 良いなと羨ましがっているうちに恋愛感情に変わっていたんだ。 すまない。 言い方は悪かったが強制したかったわけではないんだ。」 いつの間にかポロポロと泣き出す会長に手を伸ばし抱きしめる。 人気で頭も運動神経もよく、容姿もいいこの人だからこそ、こんな苦労をしていたのかとついてを伸ばしていたのだ。 いつの間にか木の上の怪しいやつも消えていて、泣き止むまで考えにふける。 どうして抱きしめたのか。 この人が儚く今捕まえないと消えてしまいそうで、もったいなく思えたから。 どうしてもったいなく思えたのか。 格好良いこの人が俺の事だけで表情をコロコロ変え、可愛いと思えたから。 どうして可愛いと思ったのか。 ほとんど同じ背、それも日本人平均より高い百八十センチくらいなのに加え、そこそこに厚い体なのにも関わらず、普段周りには見せず、俺だけに見せるそんな姿が愛おしいと思えてしまったから。 とりあえずそれだけ思った事があれば、恋人関係くらいになるのは問題ないかもしれない。 と思ってしまっている自分に驚く。 一応俺自身も両親共に資産家で父親の祖父母も資産家であるので、最近お見合いが盛んにある。 このだらしない姿を見て口々に断られているらしいが、婚約者がいない今この人と付き合うのも選択肢としてはありなのかもしれない。 「会長様。 俺にいいところなんぞ存在してないんじゃないか? ん?」 あやすように背中と頭を撫でると何故か許可のないまま口づけをされる。 「んー。んん。はぁ、あ、あぅ...。んぅ。うぅ...。チュ、チュパッ。」 しかも深い方。 一体何がしたいのか。 頑張ってディープキスというものをしようとしているらしい。 しかし甘い声を上げているのは会長である。 俺がイエスと言わないから体で落とそうとしているのか? おい、会長様よ。なぜお前の腰が砕けてんだ。 お、意外と軽い。てかその硬いものを擦りつけるな。 いやはやこりゃあ恋は盲目どころじゃないだろ...? 「はぁ、はぁ。 なあ、だめだろうか?」 そりゃあ会長様のお顔で潤んだ瞳で見つめられりゃあドキッとするさ。 しかしなぁー。 「そんなに俺のことが好きなんですか? キスも弱いし感度も良い会長は、きっと俺に押さえつけられて犯されちゃいますよ。」 むしろ嬉しいと言うように抱き着いてくる。 彼は無言のままズボンからスマホを取り出し、電源を入れると少し操作したあと耳に当てる。 とりあえず自分では判断が付かずスマホを取り出す。 結婚を前提に、一応跡取りなのである俺はこの人と付き合う場合子供は望めないだろう。 今の所この人に恋愛での好きという感情はないが、好意は半年ぶりだったためまあ良いかなと苦笑いをする。 「もしもし。」 『ん? 凱じゃないか。どうしたんだ? ユリエさーん。凱から電話がかかってきたぞー。』 名前を確認せず出たのか、確かめるように画面を見たのだろう。 少し声が遠くなり、妻、凱の母親を呼ぶ声が聞こえる。 「カールトン家って知ってるか?」 その会話にピクリと彼に抱きついていた会長は震える。 『知ってるも何もカールトン様なら目の前にいるが...。』 「うん? 何用で? そこ俺の家だよな?」 『もちろん。 今は商談が終わったあとにお昼に誘ったところけど? まずかったか?』 「いや、あー。 そのカールトン様の息子、椿様に結婚を前提にお付き合いを申し込まれ、抱きつかれているんですが。 父様。どうしたらいいでしょう。」 『それを俺に相談するなよ。 ああ、なるほど。凱には弟がいるだろ。 とっ、ちょっと待ってろ。』 そう言うと衣服の音が聞こえる。 誰かに彼の父親は簡潔に何かを説明したような声が聞こえ、 数秒で聞いた子のない声がスマホから聞こえだす。 『はじめまして。 カメリアの父だ。 よろしく。』 「凱です。」 『息子が世話をかけたようだね。 私は息子から何も聞いていないよ。 カイくんのお父さんからいま聞いた内容から見るに、今そこに息子はいるのかな? 私は別段構わないが......、 そうだねぇ、最近泣きながら電話をしてくる事が増えていた。 あの図体ではあるが心は異常なほどに脆い。 駆け引きなんかも得意で、カリスマ的に当主に向いているのだがね。 まあそんなわけで甘やかして守ってくれないだろうか。』 「はぁそう言われましても、俺守ってあげられるほど椿を好きになれるか分かりませんよ。」 『カイくんが男も大丈夫と言うのなら物は試しじゃないかな? 大丈夫。もしやっぱ無理と思ってしまったなら、私が息子が立ち直るまで慰めるとするよ。』 「はぁ。 なんでよりにも寄って父親と商談中なんだ。 なあ椿。」 そろそろぉっとゆっくり目線が合う高さまでゆっくり起き上がる。 興奮は収まっているようだが、会長様らしからぬあおいかおをしている。 「結婚前提に付き合ってやるよ。 俺を悶えさせるくらいに好きにさせてみろ。」 「ありがとう。」 「と言うのが高一のときにあったな。」 「ああ。懐かしいな。 あともうちょっとで、凱が悶えてしまうほど俺を好きになってくれそうだな。」 懐かしむように苦笑いをする凱と、嬉しそうにニヤける椿の姿が、あの時木の上から顔見していた女子生徒の前にあった。 「へー。 私がいなくなったあとにそんな事があったのねー。 見とけば良かったわー。 しっかしあんたらそんなだったくせに、十分イチャイチャラブラブで、リア充撲滅委員会にリア充爆発スイッチ押されるレベルにリアル充実しているわよね。 そうねぇ、もっと詳しく教えてよ。 今すぐにでも漫画化するわ。 これは正しく運命的な出会い!! ふっ、絶対売れるわ。 あんたらの馴れ初めでガッポガッポ稼いでやるんだから。 少しはリア充分けなさい。」
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