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「それはわかっている。わかっているんだが、そもそも婚約者がいる状態で君とつき合い始めた私が悪い……」
「それは俺が誘ったからなのでいいんです」
雨宮がぴしゃりと言うと、黒田は「わ、わかった」と納得してくれた。よし。
「……で、やっぱり縛るのか?」
「お仕置きですから」
にっこり笑ってプロの技できっちり手首を縛って自由を奪うと、黒田は困惑したように顔を赤らめた。
ん……? これって……?
じっと見つめていると、恥ずかしいのか、黒田は雨宮の意識をそらすように自分から話し始めた。
「……今日の朝、君に電話を切られて愕然として、それで七瀬さんに水曜のことを聞いたんだ。その時に伊沢課長の話も聞いたよ。そんな大事なことを君が話せなかったなんて……それもすまなかった。謝ることばかりだ」
申し訳なさそうに言う黒田に、気にしないでくださいと、雨宮は首を横に振った。
「それはもういいんです。俺が辞めても課長がこれからもつき合ってくれるなら……」
「いや、君の契約終了は取りやめになったから」
……。
……。
……えぇッ?
あまりのことに口をぱくぱくさせていると、黒田は小さく笑った。
「君の仕事に対する姿勢を見て、やはり今回の処置は間違いだと思ったんだ。それで他の課長の説得を始めていた。思った以上に、派遣を減らしても残業が増えてコスト削減にならないという意見が多かった。伊沢課長は最後まで渋っていたが、今日七瀬さんの話を持ち出したらついに折れたよ。七瀬さんのお手柄だな」
すごいことをしておきながら、ただ雨宮がクビにならなくてよかったと笑っている課長を見て、喉に熱いものが込み上げてくる。
表の世界でこれからも課長と働ける……。夢にも思わなかった幸せに、胸がいっぱいになった。
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