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「今月末で契約終了になります」
廊下の隅で、雨宮夏樹は言葉を失っていた。
来社した派遣会社の営業の言葉は寝耳に水でもあり、秘かに恐れていた事態でもあった。
東京本社からコスト削減の指示が出て、うちの部も派遣が一人切られる――そんな噂が社内で流れ始めた矢先だった。
「それは……本決まりですか。交渉する余地は」
雨宮がすがるような思いで聞き返すと、営業はあからさまに面倒くさそうな顔をした。
「交渉と言われましても、企業さんがコスト削減のためと言っているのですから、うちではどうしようもないですよ」
その言葉で、目の前の男がろくに交渉もせず雇い止めを受け入れたのだと察しがついた。不況のあおりで月給を減らされたというこの男は、最近やる気がゼロだった。
「あの、それじゃ、次の仕事を紹介していただきたいのですが」
「仕事の情報でしたらうちのホームページに載っているのが全部ですので、自分で探してください」
営業はにべもなく言うと、事務的な話を済ませてさっさと帰っていった。
「嘘だろ……」
今は六月一日の午前中。あと二十九日で無職と宣告された雨宮は途方に暮れるしかなかった。
「そう、雨宮君だったの……」
その日の昼休みが終わる頃、雨宮は派遣仲間の佐久間に自分が切られることを伝えた。
「雨宮君が切られたの、派遣会社の関係よね、多分」
だろうな、と思う。派遣元は雨宮だけが別で、他の三人の女性は同じ派遣会社で営業もしっかりしている。きっとあのやる気なし営業の方が契約終了を言い出しやすかったに違いない。
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