678人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
保育園児や幼稚園児ではなく、大の大人にそんな顔をさせたと思うと、雨宮はすっかりご満悦だった。
雨宮は黒田のズボンから手を抜き、ガムテープを破いてやりながら意地悪く言った。
「こういうの、好きなんですね」
「ち、違う……こんな……」
そんな言い訳など聞いてやらず、雨宮は耳元で囁くように宣告した。
「これからも貴方の望み通り、俺が課長さんを滅茶苦茶にしてあげる」
「……」
黒田はもう何も言わず、うつむいたようにも、頷いたようにも見える反応をした。まるで甘い誘惑に捕らわれたように。
こんなかわいい人、誰にも渡さない。
俺のものだ。
雨宮は感じたこともないような独占欲に駆られながら、自分のものだと印をつけるように黒田の唇をすすった。
雨宮は朝から舞い上がっていた。
この月末でクビになることなどどこ吹く風で、廊下でスキップをしそうになるほど浮かれていた。
今日の朝のあの光景。
雨宮が挨拶すると、課長席にいた黒田はびくっと体を引きつらせ、雨宮と目が合うと気まずそうに目をそらした。
『お……おはよう……』
その恥辱に震える声を聞いただけで、雨宮は両手を握ってよっしゃあ! と叫びたくなったぐらいだ。
俺、課長に、意識されてる……!
昨日、淡々とした態度に翻弄された分、今日はそれを確認できただけで天にも昇る気持ちだった。
最初のコメントを投稿しよう!