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昨日あの後、黒田は自身の欲でぐちゅぐちゅになった下着をつけたまま、家に帰ったことだろう。黒田の恥辱にまみれた帰途を思うとにやにやしてしまうが、少し無体なことをしたと思わないでもない。やはりこういうデリケートなことはアフターケアが重要なのだ。
それなら近いうちにご褒美も兼ねて、優しい女王様が愛情をこめて童貞を奪ってやるというのはどうだろう。いや童貞かどうかは知らないけど、そうだとさらに楽しそうだ。
そんなふうに顔がゆるみっぱなしの雨宮が派遣仲間に声をかけられたのは、昼休みに入ってすぐだった。
いつも女性三人が昼食を取っている応接室に呼ばれ、雨宮も一緒に弁当を食べながら即席の派遣会議が始まる。今は派遣四人で六つの課の仕事を受け持っている状態であり、一人抜けると確実に残業が増えるので、他の派遣も人ごとではなく気を揉んでいた。
「ショックです。雨宮さんが辞めさせられるなんて。私、すごく雨宮さんにはフォローしてもらってたのに……」
目を潤ませてそう言うのは、派遣の中では一番年下の七瀬だ。少しおっちょこちょいだが愛嬌があり、結構かわいい。そんな七瀬が涙ぐんでくれるとちょっと感動的だが、早合点してはいけない。一ヶ月前にレーシックをして、術後の経過がかんばしくないとかでしょっちゅう目薬をさしているのが彼女の近況である。
「次の仕事は見つかりそう?」
「全然ですね。でもまぁ長期戦でいきますから大丈夫ですよ。なんとかなりますって」
一番古株の佐久間に心配されてもそんなお気楽な答えしか出てこない。ひとえに黒田への想いでドーパミンがどっぱどっぱ分泌されている雨宮は考え方まで楽観的になっていた。不退転の決意はどこへやら、いざとなれば古巣に戻って風俗をしながら就活を続ければいいんだと思う始末である。
「雨宮君は納得できるの、今回のこと」
何事もはっきり物を言う寺内が、分厚い眼鏡のレンズ越しに雨宮を見つめてくる。
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