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「仕方ないですよ。それに黒田課長が解雇のことをきちんと説明してくれたんで、俺的には諦めついたって言うか」
寺内は眉をひそめた。
「そんなことぐらいで納得できるの? 私だったら許さない」
「手厳しいですね」
「私、あの人嫌い。いかにも東京から来たエリートって感じで、派遣なんか眼中にない感じ」
二日前まではまったく同じイメージを抱いていただけに、寺内の気持ちはよくわかった。
「なんて言うか、愛想がないのよねー。四月にさ、専務の娘さんとの婚約話が噂になったじゃない? あの時、うちの課長が黒田課長に『あの子と結婚するんだって?』みたいなこと言ったわけよ。そしたら黒田課長、『仕事に関係ないことですから』って言って、それで終わりよ。もう周りは引きまくり」
佐久間の話に、寺内は「何それ、感じ悪い」と顔をしかめていた。雨宮もその時たまたま現場を見ていたので、うわこの人ノリ悪、と思ったのは覚えている。
「黒田課長ってそういうこと平気で言いそうですよね。全然笑わないし」
意外にも面食いの七瀬にまで不評らしい。
「そんなこと言って、七瀬さん、最初は黒田課長にきゃーきゃー言ってたじゃん」
「もう、それは言わないでくださいよっ」
七瀬が焦ったように雨宮に言い返し、どっと笑いが起こった。
それにしても、課長ってずいぶん誤解されてるよな、と思う。
愛想がよくないのは確かだが、そこまでひどかったのはその一件だけだ。恐らく婚約者とうまくいっていなくて、その話だけが鬼門なのだろう。それにここまで冷たい印象を持たれているのは、性格というよりは多分下手に美形なせいだ。
課長は誠実でいい人ですよと言いたかったが、その根拠を言うわけにもいかない。雨宮は少しやきもきしながら一足先に応接室を後にした。……今日の予定を課長から取りつけるためだ。
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