03 エレベータプレイ(2)

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 前の課長がそう言って夕飯を食べに出ていた――要するに空腹が我慢できない人だった――のでその人の言い訳を拝借しただけなのだが、黒田にはこんな言葉が有効らしい。  ほんとに真面目な人だよなと思う。もちろん、つけ入る隙を逃す手はない。 「たまにはいいじゃないですか。そういうことで、七時にこのビルの裏口で待ってますから」 「なッ……」  黒田は目を剥き、自分の席に戻ろうとした雨宮の袖をつかみ、小声で言い募った。 「なんのつもりだ。もう脅さないと昨日言ったはずだろ」  課長が焦るのも無理はない。  課長の前で写真を消してみせたわけではないし、実は例の写真はまだ削除しておらず、携帯に残したままだった。「もう脅さない」とは約束したが、写真を消すとは言っていないからだ。 「脅しじゃないですよ。何もしませんって。課長と夕食をご一緒したいだけです」 「……それなら断る。私は行かない」 「そうですか、でも七時に待ってますから」  取り合わずににっこり笑うと、黒田は瞠目した。  明確に脅しはしないが、もう少しだけ脅しを匂わせておきたかった。  脅しがなくなっても、黒田が快楽に囚われ雨宮から離れられなくなるまで。 「……」  何か言いたいが、何も言えないでいる黒田の気配を背中に感じながら席に戻り、雨宮はくくっと口の中だけで笑う。  黒田は必ず来るだろう。匂わせた脅しが黒田の逃げようとする理性を鈍らせ……マゾとしての被虐心をくすぐってやまないはずだから。
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