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がばっと携帯に飛びつき、写真フォルダを確認する。一番最後に撮影したので先頭に来るはずの課長の写真は、跡形もなく消えていた。
「ず、ずるいですっ」
思わず抗議の声を上げると、課長はまじまじとこちらをうかがっていて――。
「その様子だと、バックアップはないんだな」
――あ。
やられた、と思った。
写真を削除されても、まだコピーが家にある、という芝居をすることもできたのに。
「……」
これで、脅す材料がなくなった。
慌てた反応を見せた後では、まだ脅す材料があると匂わせることもできない。
黒田は呆れたようにテーブルに両肘をついて、手を組んだ。
「君を見ているとどうも行き当たりばったりだから、まさかとは思ったが……よくその無計画さで人を脅そうと思ったものだな」
「……」
ぐうの音も出ない。
「しかも写真も写真だ。なんの証拠にもなりそうになかったぞ」
「す、すみません……」
貧相なネタで脅していたことがバレてしまい、もうほんとにいたたまれなくなって縮こまっていると、深いため息がもらされた。
「要するに、脅しを実行に移す気はなかったんだな」
「ええと……そうです」
「人を安易に脅すんじゃない。いつか自分に跳ね返ってくるぞ」
黒田は気を取り直したように箸を取り、またトンカツを食べ始めた。
……。
課長は多少眉を寄せてはいるけど、それほど怒っている感じはなかった。
なんというか、課長は優しい。
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